犬と猫…ときどき、君
「あ、そうなの? 何か怒ってるのかと思ったぁー」
真顔の私にそう言うと、何故か隣にドカリと腰を下ろした“篠崎君”。
なんで……座るかなぁ。
申し訳ない気持ちはありつつも、そんな風に思う私に気付くはずもない彼は、ニコニコ笑顔で相も変わらず話を続ける。
「ねーねー! 芹沢サンって、下の名前“胡桃”っていうんでしょ?」
「……うん」
「じゃーさっ! “胡桃ちゃん”って呼んでもいい?」
「……」
「あれ? ダメ?」
――ダメというか。
取り敢えず、その煙を何とかして欲しい。
せめて、目の前でだけでも消して欲しいと思うけど、この場の楽しい空気を乱すのは気が引ける。
「……」
うーん、どうしよう。
だけどやっぱり、目の前でユラユラと揺れる煙草の煙に限界を感じて、無言になった時。
「タバコ、消したら?」
さっきから、黙って篠崎君の隣にいた男の子が、突然口を開いた。
瞬間、“黒髪クン”に向けられたのは、私の驚いた顔と、
「へっ!?」
篠崎君の素っ頓狂な声。
そんな私達の反応をオール無視した“黒髪クン”は、また大きなアクビを一つして、私の顔を覗き込みながら言ったんだ。
「“胡桃ちゃん”、煙草ダメなんじゃねぇの?」
だ、誰だか知らないけど、ありがとう!!
そんな気持ちでいっぱいの私は、その男の子の一言に、ブンブンと頭を縦に振った。
「マジでっ!? ごめん!! 芹沢サン、言ってよー!」
慌てて煙草を消す篠崎君を尻目に、“黒髪クン”は相変わらず飄々としていて。
「『言ってよ』ってお前、普通に言いにくいわ」
彼の突っ込みに「お前はうるせぇ!!」なんて言ったあと、
「ごめんねっ!! 俺、気が遣えない子で!!」
頭を掻きながら苦笑した篠崎君は、私の「ありがとう」という言葉に、にっこり笑顔を返してくれた。