犬と猫…ときどき、君
「彼に関しては、問題ないです。だってあの人、私の全部が大好きなんです。だから、どんなお願いだって聞いてくれるんです」
「……」
「だからそれはいいとして。もしも芹沢さんが、ハルキさんと別れたいって言ったその時は、私と本当に、付き合ってもらえませんか?」
「は?」
「もちろん、強制ではないんで、お返事はハルキさんにお任せします」
控え目ぶった言葉とは裏腹な、その自信ありげな瞳。
まるでそれを隠すように、俺からスッと視線を逸らした松元サンは、ゆっくりと伸ばした指先で俺のシャツの袖を掴み、
「私にも、もう少しだけチャンスを下さい」
そんな言葉を口にしながら、“困ったように”笑った。
こんなの、作り笑いに決まってる。
それに、“チャンスを”とか言いながら、もしもの時には何だかんだと理由を付けて、無理矢理にでも俺と付き合うつもりだろ?
分かってるんだ。
分かってんだよ、そんな事は。
だけど、その時の俺にとって、彼女の口をついて出るその言葉は――……
「芹沢さんの事、信じてるんですよね?……どうしますか?」
「……」
「ハルキさん」
「あぁ、わかったよ」
「じゃー、商談成立ですね」
どうしようもなく弱った心を揺さぶる、悪魔の囁きだったんだ。