犬と猫…ときどき、君
「これ……昨日、友達から送られてきたんです」
それに追い討ちをかけたのは、やっぱり松元サンだった。
困ったような、哀れむような微妙な表情を浮かべながら、彼女が差し出した携帯。
「……っ」
ゴクリと、飲み込んだ唾の音が耳元で聞こえた。
松本サンに動揺を覚られたくないとか、そんなことを考える余裕さえない。
「こんなの、ひど過ぎます」
どこか遠いところでその言葉を聞く、俺の目に映ったのは、及川さんのに抱きしめられる、胡桃の姿。
その綺麗な髪に及川さんの指が絡まり、腕の中に抱き止められた体。
自分を落ち着かせたくてゆっくりと吐き出した息は、笑ってしまうくらい震えていた。
――なぁ、胡桃?
俺だけが、そう出来るんじゃないのか?
今までだって、胡桃の頭を撫でる及川さんの姿は何度も見てきた。
だけど、これは違う。
違うだろ?
胡桃にこんな触れ方をしていいのは、俺だけのはずだ。
いや。
俺だけ“だった”はず……か?
“どうしたって、胡桃のこと嫌いになんてなれないから”
昔、そう言ったのは、俺なのに。
今だって、嫌いになんてなれない。
……だけど。
その画像を見た瞬間に芽生えたのは、自分でも驚く程の醜い感情。
その画像がいつの撮られたものかとか、そんな事を考える余裕さえない俺の心に沸き上がったのは――胡桃への怒りだったんだ。
「最近、変じゃねぇ?」
卒論の最終チェックをする胡桃に、ついかけてしまったそんな言葉。
ハッキリ言えばいい。
“どうしたんだ? 何かあった?”
“何かあったなら、及川さんじゃくて俺を頼ったらいいのに”
そう、言えればいいのに。
何も言わず、泣きそうな顔を誤魔化すように目を伏せる胡桃。
俺ももう……限界だったんだ。
自分のした事を棚に上げて、心底呆れる。
後になって思えば、本当にバカだったと思う。
だけどもう、その時の俺の心の中は、胡桃と及川さんを疑う“猜疑心”でいっぱいだった。