犬と猫…ときどき、君
どうやら篠崎君は、とっても素直な少年のよう。
でも、そんな彼とは打って変わって……。
さっき私を助けてくれた“黒髪クン”は、それっきり口を開く事もなく、私に話しかけ続ける篠崎君の隣で相変わらずの大アクビ。
「……」
どんだけ眠いのさ。
篠崎君越しに、ついつい彼を観察する私の耳に届いたのは、どうやら彼らが私の所に来る前にいたらしい、真っ赤な顔で盛り上がる男の子の集団から上がる声だった。
「篠崎ー! こっちで男だらけの王様ゲームすんぞ!!」
「何だよそれっ!! それは楽しいの!? ねぇ、楽しいのっ!?」
そう言いながらも、楽しそうに笑って腰を上げた篠崎君は「ちょっと行ってくるね~!」と、私に笑顔を向けて、ますます盛り上がりを見せる集団の中に戻って行った。
そしてその場に取り残された、私と“黒髪クン”。
「……」
「……」
えっと、さっきのお礼をすべき?
“ありがとう”でいい?
んー……。
「“胡桃ちゃん”?」
ん?
“くるみちゃん”?
悶々と考え込む私に、突然かけられた声。
それは、一つの空席を挟んだそこに座る、さっきまでダンマリを決め込んでいた“黒髪クン”の声で。
彼はなぜか篠崎君と一緒に“男だらけの王様ゲーム”は向かわずに、突然私の名前を呼んだ。
その声にちょっと驚いて、視線を送ると……。
――ドクン。
初めて間近で、その真っ黒な瞳と目が合った。
真っ直ぐ私を見据えるその瞳は、驚く程にキレイな深い“黒”。
「は、はい。何……でしょう?」
突然下の名前で呼びかけられた事と、初めて見たそのキレイな瞳に、思わず敬語になってしまう。
「あはははっ!! 何で急に敬語なんだよ!!」
そんな私を見て、一瞬目を丸くしたその人は、お腹を抱えて楽しそうに笑い出したんだ。