犬と猫…ときどき、君
「城戸君、この病院を貰ってくれないか?」
病院実習でお世話になった横山先生からそんな電話がかかってきたのは、大学を卒業して、一年が経った頃だった。
「もうそろそろ私も引退して、世話をかけっぱなしだった妻と残りの人生をゆっくり過ごしたいんだ」
そう言いながら、少し淋しそうに、だけど、とても幸せそうに笑った先生の願いを叶えたいと思った。
だけど、臨床を始めてまだ一年。
ろくに診察やオペの経験もない俺が、先生の大切な病院を引き継いでもいいものか……。
その時は、すぐに答えを出すことが出来きなくて。
「すみません。少しだけ、考える時間を貰ってもいいですか?」
俺は、返事を保留にさせてもらっていた。
引き継ぐなら、獣医が何人か必要になる。
取り合えず、最初はアニテクは雇わずに、獣医だけでもいい。
色々考えて、篠崎と栗原に声はかけたものの、正直難しいんじゃないかって、そう思ってた。
――だけど。
勤め先に新しく入ってきたアニテクの話しを聞いて、俺は病院を引き継ぐ事を決めたんだ。
はたから見たら不純な動機。
でも、俺や“あいつ”の事を、孫のように可愛がってくれていた横山先生なら、許してくれると思った。