犬と猫…ときどき、君
「まぁ、そんなくだらねぇ話しはさて置き……。あっちは?」
俺のその言葉に、頭をガシガシ掻く篠崎の様子を見ると、あまり上手くいってないんだろう。
「相手もなかなかのやり手でさぁ。消しても消しても、なかなか追いつかねぇよ。あれは“うわさ”のレベルじゃねぇだろ」
「……」
「相当あぶねぇ奴だぞ、あれ」
「お前は大丈夫か?」
「俺ー?」
心配する俺を他所に、篠崎はやっぱり楽しそうに笑っていて。
「俺は間に色々挟んでっから、平気よん」
その余裕の表情に、俺の緊張も一気に緩んでしまう。
「危ねぇのはどっちだよ」
「はぁ~ん? こんな事になってるの、誰のせいでしたっけー?」
「……悪ぃな」
「バァーカ! 冗談だよ。んな顔すんな!!」
巻き込んだのは俺なのに、こいつはどこまでもお人好しで。
「ホント、助かってる」
「あらやだハルキュン。ダメよー。俺にはマコちんがいるから~」
「はいはい。ソウデスネ」
「何それ!? 超ムカつく!! 超傷付く!!」
「篠崎」
「はぁ!?」
「……お前がいてくれて良かったよ」
「……」
心の底から、そう思う。
俺の珍しいお褒めの言葉に目を見開いた篠崎は、赤くなった顔を誤魔化すように、頭をかいて俺を見上げた。
「あー……そういや、一個だけ情報。嬉しいお知らせかどうかは、春希次第だけど」
「何?」
「春希のチュー写真と、芹沢と及川さんのあの写真、同じ日に撮った写真っぽい」
「――え?」
思いがけないその事実に、一気に混乱する思考。
どういう事だ?
「……」
あぁ、そうか。
「……そういう事か」
そんな言葉と共に、思わず俯いた。
俺は、この時初めて、自分のとんでもない間違いに気付いたんだ。
及川さんの腕に抱きしめられて、その胸に、顔を埋めていた胡桃。
あの時、胡桃は……泣いていたんだ。
結局、その原因を作っていたのだって――……。
「俺じゃん」
全部、自業自得。
「……春希」
「俺、どこまでバカだったんだろーな」
胸に引き裂かれたような痛みが走る。
頭を抱えて、やっと搾り出された声は、自分でも恥ずかしくなるくらい震えていた。