犬と猫…ときどき、君

さっきまで、こっちに興味なさ気だったその瞳は、少しクールというか素っ気ないというか ……。

とにかくそんなイメージだったのに、目を細めて片眉を上げて笑うその表情を見た途端、イメージが180度変わってしまった。


――何か、可愛いかも。

一瞬、そんな風に思った私だったけれど。

「……」

一体いつまで笑うの?


何がそんなにおかしいのかがよくわからなくて、この笑いっぷりはどうしたもんかと、取りあえずしばらく様子を眺めていた。


「はぁ、やっと治まったぁっ!!」

しばらくの後、目の前で大きく息を吸った彼は、真っ直ぐ私の目を見て言ったんだ。

「城戸 春希」

「へ?」

「俺の名前」

思考が追い付かなくて混乱する私に、“城戸 春希”は笑いながらまた口を開く。


「お城の“城”に、戸口の“戸”」

「えっ?」

突然の事に目を瞬かせる私に向けられる黒い瞳は、相変わらず綺麗だ。

「で、春夏秋冬の“春”に、希望の“希”。でも、秋生まれ」

そんな言葉を続けた“黒髪クン”――もとい“城戸 春希”は、ちょっと首を傾げて私を覗き込む。


「覚えた?」

「へ?」

「俺の名前。言ってみ?」

「キド……ハルキ?」

「うん。生まれた季節は?」

「秋」

「そうそう」

私の言葉に満足気に二、三度頷いた彼は、また私の目をじーっと見つめたあと、

「ちょっと、外出るか」

ポツリと独り言のように呟くと、私の鞄を持って立ち上がった。


「え? ちょ、ちょっと! どこ行くの?」

「いいから。来なよ」

そう言うと、幹事だったらしい篠崎君に一言声をかけ、半ば強引に私を外に連れ出した。


< 22 / 651 >

この作品をシェア

pagetop