犬と猫…ときどき、君
さっきまで、こっちに興味なさ気だったその瞳は、少しクールというか素っ気ないというか ……。
とにかくそんなイメージだったのに、目を細めて片眉を上げて笑うその表情を見た途端、イメージが180度変わってしまった。
――何か、可愛いかも。
一瞬、そんな風に思った私だったけれど。
「……」
一体いつまで笑うの?
何がそんなにおかしいのかがよくわからなくて、この笑いっぷりはどうしたもんかと、取りあえずしばらく様子を眺めていた。
「はぁ、やっと治まったぁっ!!」
しばらくの後、目の前で大きく息を吸った彼は、真っ直ぐ私の目を見て言ったんだ。
「城戸 春希」
「へ?」
「俺の名前」
思考が追い付かなくて混乱する私に、“城戸 春希”は笑いながらまた口を開く。
「お城の“城”に、戸口の“戸”」
「えっ?」
突然の事に目を瞬かせる私に向けられる黒い瞳は、相変わらず綺麗だ。
「で、春夏秋冬の“春”に、希望の“希”。でも、秋生まれ」
そんな言葉を続けた“黒髪クン”――もとい“城戸 春希”は、ちょっと首を傾げて私を覗き込む。
「覚えた?」
「へ?」
「俺の名前。言ってみ?」
「キド……ハルキ?」
「うん。生まれた季節は?」
「秋」
「そうそう」
私の言葉に満足気に二、三度頷いた彼は、また私の目をじーっと見つめたあと、
「ちょっと、外出るか」
ポツリと独り言のように呟くと、私の鞄を持って立ち上がった。
「え? ちょ、ちょっと! どこ行くの?」
「いいから。来なよ」
そう言うと、幹事だったらしい篠崎君に一言声をかけ、半ば強引に私を外に連れ出した。