犬と猫…ときどき、君
「彼女いるんだから、他の女の子のこんな格好見たって、何とも思わないでしょー?」
別に嫌味を言いたかったとか、城戸に嫌な思いをさせたかったとか、そんな気持ちは全くなかった。
ただ、冗談でそう口にした、だけだったのに……。
私の放った一言に、目の前の城戸の表情が一瞬で変わった。
あぁ、まただ。
その綺麗な瞳がわずかに揺れて、色が変わる。
「城戸、あのね……っ」
“冗談だから”
そう、口にしようとした。
したんだけど――……。
「き……ど?」
ゆっくりと伸ばされた、城戸の綺麗な指先。
それが、私の腕を掴む。
「……っ」
気が付いた時には、私は倒れこむように、城戸の腕の中に抱きすくめられていた。
「ちょっと、城戸……っ!!」
ハッとして、その胸を押し返すけど、私の動きを制すように、城戸はギュッと抱きしめる腕に力を込める。
耳元で聞こえる激しい心音が、自分の音なのか、城戸の音なのか……。
それさえも分からないくらい、動揺していたんだ。
「ねぇ……っ!!」
こんなの、ダメだ。
ありったけの力を腕に込めると、わずかに開いた城戸との距離。
――だけど。
「胡桃」
「……っ」
本当に“目の前”で、私の名前を静かに呼んだ城戸の声に、胸が酷く痛んだ。
なに……これ。
痛い。
痛い、痛い。
「……ごめん」
「え?」
「頼むから」
「……」
「泣かないで」
ねぇ、城戸。
泣いているのは……私?
「ごめん」
見上げている城戸の顔が、見る見る滲む。