犬と猫…ときどき、君
「だ~か~ら~さぁっ!! それは城戸が好きだからでしょう!?」
「えぇ……」
「“えぇ~”じゃない!! てか、あんた、城戸に何されたか忘れたの!?」
「忘れたわけじゃないけど、もう昔の事だし。ってゆーかさぁ、大声出さないでよ」
「は!?」
「向こうの部屋に聞こえるから」
「……」
やっと取れたお昼休憩の時間。
ちょっと前まで篠崎君が使っていた医局の椅子に座るマコは、何故か逆ギレ気味で、眉間に皺を寄せ……。
まるで八つ当たりをするかのように、お弁当のタコさんウィンナーにお箸を突き刺した。
タコさん、可哀そうに。
思わずタコさんに同情してしまった私を横目に、尚も勢いの治まらないマコは、頬杖を付きながら文句をぶーたれる。
「診察中からおかしいと思ったんだよ!! 胡桃はまぁ、いつもの事だけど、城戸が全く胡桃に絡まないんだもん。バレバレだっつーの!!」
「そうかなぁ」
「そうですっ!! てか、城戸のヤローはどこ行ったぁ!?」
「さっき“ちょっと出てくる”って、出て行った。私と顔合わせたくないのかも……」
小さく溜め息を吐いた私に、やっと荒くなっていた鼻息を少し落ち着けたマコ。
「ちょっとー。やめてよ、そういうのー……。気持ちはわかるけどさ、他の子達は知らないんだから」
「わかってる」
わかってるけど、どうしようもない事だってあるわけで。
私と城戸の過去を知らないアニテクの三人からしたら、必要最低限の事しか話していない今日の私達は、ケンカをしているように見えるのかもしれない。
そのせいか、確かに今日の午前中の病院内の空気は、どこか重苦しかった。
「ごめん、気を付けるよ」
「別に胡桃は悪くないじゃん。悪いのは城戸でしょうが」
「ううん。きっと……私が悪い」
冗談で言った言葉だったけど、城戸のあんな顔を見たらそうとしか思えない。
「胡桃ぃ」
「んー?」
「あんたは、優しすぎる」
下を向いてポツリとそう呟いたマコは、悲しそうにその瞳を伏せた。