犬と猫…ときどき、君
「最初は、芹沢さんが嫌いでした」
「……」
「だけど、違かった。芹沢さんは全然違かったんです」
“嫌いだった”
“全然違かった”
どういう意味だ……?
中野は、混乱する頭の中を落ち着けるように、ゆっくりと息を吐き出した後、眉間に皺を寄せる俺を見据え、ポツリポツリと事の真相を話し始めたんだ。
「最初に芹沢さんの話しを聞いたのは、松元からでした」
「……」
「松元に、相談されたんです。俺はずっと松元が好きで、あの子はそれを知っていたんだと思います」
あの女が関わっているのは、わかっていた。
だけど、いざそれを目の当たりにすると……。
「何を言われたんだ?」
怒りで声が震えないように、ゆっくりと、出来るだけ静かに言葉を口にする。
「芹沢さんが、周りの女の子に自分の悪い噂を流してて、そのせいでみんなにシカトされてるとか、色々……。だから、助けて欲しいって……」
「胡桃は、そんな事する人間じゃねぇぞ」
俺の低い声に、仲野は申し訳なさそうに顔を歪めて、一度ゴクリと息を呑み、再び重い口を開く。
「同じ研究室に入って、知りました」
消え入りそうな、仲野の声。
「芹沢さんは、そんな人じゃないってすぐにわかりました。いつも俺を気遣ってくれて……。あの時も、バイト漬けの俺の身体を心配してくれて」
「“あの時”?」
仲野の口から出されたその言葉に、俺は小さく首を傾げた。
「あの日、図書館に芹沢さんを向かわせたのは俺なんです。あの二枚の写真を撮ったのも、俺です」
「――っ」
「芹沢さんと及川さんの写真は、偶然だったんですけど……」
どこかで、気付いてはいた。
そうじゃないかとは思っていた。
だけど、篠崎からこいつの話しを聞いた時も、今も。
俺はどこかで、仲野の事を信じたかったのかもしれない。
どこまでも考えの甘い自分が嫌になる。