犬と猫…ときどき、君

「すみません……」

目の前で項垂れる仲野をぶん殴れたら、どんなに楽だろう。

拳が僅かに震えて、それを抑えるように強く握る。


でも、きっとこいつだって……。


「謝罪なんかいらねぇよ。それを聞いたところで……あの頃には戻れねーし」

「……っ」

「何で胡桃の誤解が解けた後も、続けた?」

俺が聞きたかったのは、それなんだよ。

どうしたって、その理由がわからない。


だけど、次に仲野の口をついて出たその言葉で、俺は“理由がわからない”のが当然だと思った。


「松元に、会いたかったんです……」


胡桃を誰よりも大切に想う俺が、そんな感情を理解できるはずがなかったんだ。


「それでも俺は、松元が好きだから……。だから、続けるしかなかったんです」

「仲野、わかんねぇよ。意味わかるように説明しろ」

少しずつ増すイライラに、俺はガシガシと頭を掻く。


「“今まで通り続けたら、週一回は会ってあげる”」

「――は?」

「松元に、そう言われました。俺は、城戸さんみたいに強くないんです」

そう口にすると、自分の後ろめたい気持ちを隠すように、ゆっくりと下を向いた。


間違えてる。
仲野は、絶対に間違えてる。

強いとか弱いとか、そういうんじゃないだろ。


――だけどさぁ、仲野。


「まだ話し、終わってねぇだろ?」

「はい……」

「だったら、ちゃんと顔上げて話せ」


俺の言葉に仲野は、本当に一瞬だけ泣きそうな顔をしたあと、その重い口を開き、

「俺は、松元が好きで……無理かもしれないけど、ちゃんと説得して、こんな事を止めさせたかった」

「で?」

「あいつを、救いたいんです」

瞳を伏せて、小さく、そんな言葉を落としたんだ。

< 255 / 651 >

この作品をシェア

pagetop