犬と猫…ときどき、君
「すみません……」
目の前で項垂れる仲野をぶん殴れたら、どんなに楽だろう。
拳が僅かに震えて、それを抑えるように強く握る。
でも、きっとこいつだって……。
「謝罪なんかいらねぇよ。それを聞いたところで……あの頃には戻れねーし」
「……っ」
「何で胡桃の誤解が解けた後も、続けた?」
俺が聞きたかったのは、それなんだよ。
どうしたって、その理由がわからない。
だけど、次に仲野の口をついて出たその言葉で、俺は“理由がわからない”のが当然だと思った。
「松元に、会いたかったんです……」
胡桃を誰よりも大切に想う俺が、そんな感情を理解できるはずがなかったんだ。
「それでも俺は、松元が好きだから……。だから、続けるしかなかったんです」
「仲野、わかんねぇよ。意味わかるように説明しろ」
少しずつ増すイライラに、俺はガシガシと頭を掻く。
「“今まで通り続けたら、週一回は会ってあげる”」
「――は?」
「松元に、そう言われました。俺は、城戸さんみたいに強くないんです」
そう口にすると、自分の後ろめたい気持ちを隠すように、ゆっくりと下を向いた。
間違えてる。
仲野は、絶対に間違えてる。
強いとか弱いとか、そういうんじゃないだろ。
――だけどさぁ、仲野。
「まだ話し、終わってねぇだろ?」
「はい……」
「だったら、ちゃんと顔上げて話せ」
俺の言葉に仲野は、本当に一瞬だけ泣きそうな顔をしたあと、その重い口を開き、
「俺は、松元が好きで……無理かもしれないけど、ちゃんと説得して、こんな事を止めさせたかった」
「で?」
「あいつを、救いたいんです」
瞳を伏せて、小さく、そんな言葉を落としたんだ。