犬と猫…ときどき、君
「そんなの、決まってるじゃないですか。春希さんが、好きだからですよ」
俺の期待を裏切らない、予想通りのその回答が可笑しくて、笑ってしまう。
――“好き”?
そんなくだらない感情はさ、“好き”じゃないんだよ、松元サン。
言ってもわからないだろうけど、一応忠告しておいてやるよ。
「アンタはどうやったって、胡桃にはなれないよ?」
「は?」
「胡桃にはなれない」
俺の言葉の本当の意味を、きっと彼女は理解できない。
まぁ、当然だろうけど。
だって彼女は、きっとまだ自分自身の感情にも気付いていないんだろうから。
「アンタが俺と付き合いたいのは、“俺”が好きだからじゃないよ」
「意味がわかりませんけど」
「だろうね。まぁいいよ。アンタの気が済むまで、付き合ってやるよ。だけどさ――」
少し屈んで、覗き込むようにその瞳を見据えると、彼女がゴクリと息を呑むのがわかった。
「もし、またくだらねぇ事で胡桃を傷付けたら、許さねぇから」
「――っ」
悔しそうに唇を噛みしめる松元サンを見ると、きっとこの忠告は意味があったはずだ。
ホント、どうしようもない女――そう思うのに。
「あとさ、アンタもっと周り見た方がいいんじゃない?」
痛いほどに伝わってしまった、仲野の想い。
「話しはそれだけ」
クルリと振り返り、立ち尽くす松元サンに構いもせずに、その扉をバタンと閉めた。
「はぁー……」
いつかアイツも、仲野の気持ちに気付けたらいいと思ってしまう俺は、やっぱりお人好しなのか、それともお節介なだけなのか。
「まぁ、どっちでもいいや」
こんな日でも、頭の上に広がるのは、やっぱり綺麗な星空。
それを見上げながらポツリと呟いた言葉は、静かな夜の空気に、吸い込まれるように消えていった。