犬と猫…ときどき、君
次の日の朝、当然の事ながら寝起きの気分は最悪なワケで。
「あー……。頭いてぇ」
いつもの頭痛に、別に誰に話しかけるわけでもなくそう呟いて、サイドボードの時計に目をやる。
デジタルの時計が示す“5:50”という表示に、溜め息が漏れ出た。
睡眠時間は、たったの二時間。
「そりゃー頭も痛くなるっつーの……」
頭をボリボリ掻きながらベッドから起き上がり、そのままバスルームに向かう。
どうせもう、寝付けないのはわかってる。
ここ数年、不眠症とまではいかないけど、安眠できていない事は確か。
家にいたって別にやる事もないし、こういう日は熱いシャワーを浴びて、朝飯も食わずに病院に向かうんだ。
昨日の今日で、胡桃の様子も心配だしな……。
「今日の言い訳、どうすっかなぁ」
赤信号で停止した車の中で、ハンドルに凭れかかりながら、そんな事をぼんやり考える。
遅番の時間を守らず、いつも早番と同じ時間に病院に着くと、「身体壊すから、シフトは守って!!」と胡桃に文句を言われるから。
「松元を職場に送ってから来るから、そのついで」
誤魔化すために吐き始めた、その嘘。
文句を言いながらも、心配してくれてる胡桃の気持ちが最初は辛くて、そんな嘘を吐いてしまった。
そうすれば、胡桃は何も口出し出来ないってわかっていたから。
「……最悪だな」
小さく漏れる、自嘲的な笑い。
昔も今も、結局俺が、胡桃を一番傷付けてるのかも。
段々口にする事さえ嫌になってきた、その嘘の代わりになる物を必死に探すけど、本当の事なんて言えないからさ。
だから結局、俺はまた胡桃が大嫌いな“嘘”を塗り重ねるんだ。