犬と猫…ときどき、君
夜になると、まだ少し肌寒いこの辺り。
「さて、店に戻る? 帰る?」
――あの後、小さく震えながら無意識に腕の辺りをさすった私を見て首を傾げながら、そう尋ねてきた城戸春希。
「ん~、どうしよう。帰ろうかな……」
せっかく肺の空気が冷たい外気で洗われたのに、またあのモクモク部屋に戻るのは気が引けた。
「そっか。じゃー取りあえず携帯番号教えとけ。……って、何が“取りあえず”なのかよくわかんねぇけど」
帰る旨を伝えた私に、彼は一人でノリツッコミみたいな言葉を口にして、ちょっと戸惑っている私を「さみぃから、早く!!」なんて急かしつけた。
そんなに急かさなくても……。
さっきまで城戸春希に拉致されていたカバンから携帯を取り出し、それを開いて赤外線送信の準備をする。
「……ん? なに?」
そんな時に感じた、彼の視線。
ゆっくりと顔を上げ、その目を真っ直ぐ見つめると……心臓が何故か少し、速くなる。
「……」
「……なに?」
何も言わない城戸春希に動揺を覚られないよう、ちょっと戸惑いながらも、また同じ言葉を繰り返した。
「あのさ……」
「ん?」
「今日の俺の事、忘れないで」
「え?」
――何、それ。
「次会った時に俺が変でも、今日の俺がいつもの“胡桃ちゃん”に対する俺だから」
それは一体、どういう事?
「ごめん、意味がわからないんだけど」
言いたい事が全く解らない私が、少し首を傾げると、
「その時になったら、わかるから」
城戸春希が困ったように笑うから。
それ以上、何も言えなくなってしまった。