犬と猫…ときどき、君
「だから……ちゃんと教えといて」
何でこんなに必死になってるのか、自分でもわからない。
マコに言われたからとか、連絡が取れなかったらとか、そんなのは建前で……。
「……」
――あぁ、そっか。
それ以前に、私自身が知りたいって、そう思っているんだ。
城戸が松元さんと沖縄に行ってしまうのか、それを確かめたいって思ってる。
――マコが言った“感情”って、これの事?
もしそうだとしたら、ろくでもない。
だってこれは……ただの嫉妬。
私が城戸と叶えられなかった願いを、松元さんが叶えようとしている事への嫉妬だ。
それに気付いた瞬間、城戸の視線が怖くなって、この醜い感情を、目の前の城戸に知られたくないって思った。
自分の感情の変化に戸惑いながら、思わず下を向き、唇を噛み締めた私に、城戸は追い打ちをかけるように、ポツリと言葉を落とす。
「知らねぇよ」
「……っ」
「何かあったら、携帯かけて。ちゃんと繋がるとこいるから」
その言葉に、カッと頭に上った血液が、一瞬でスーッと引いていくのが分かった。
そうだよね。
せっかくの二人の時間なんだから、仕事の同僚なんかに邪魔されたくないよね。
城戸の言葉は、きっと私を拒絶する言葉。
マコには、ホテルの番号を聞くように言われたけど……。
「わかった」
私はそれ以上、城戸に何かを聞く事なんて、出来なかったんだ。
今までだって、何度もあった事のはずなのに、どうしてこんなにショックを受けているんだろう。
「あー……そろそろオペ始めないと」
「助手は?」
「今日は、サチちゃんにお願いするから大丈夫」
「わかった」
まるで、その場から逃げるように立ち上がった。
どうして、笑ってるんだろう?
こんなにショックを受けているはずなのに、私はどうして笑っていられるんだろう。
「……」
そんなの、決まってる。
城戸とのこの関係を、崩したくないから――だから私は、出始めた感情をまた押し殺して、何事もなかったように笑っているんだ。
「じゃー、診察よろしくね」
「はいよー」
私は、ここが好き。
マコがいて、サチちゃんがいて、ミカちゃんと、コトノちゃんがいて……城戸がいる。
ここが好きだから。
だから、城戸との関係を私が壊すわけにはいかないんだ。