犬と猫…ときどき、君

「だから……ちゃんと教えといて」

何でこんなに必死になってるのか、自分でもわからない。

マコに言われたからとか、連絡が取れなかったらとか、そんなのは建前で……。


「……」

――あぁ、そっか。


それ以前に、私自身が知りたいって、そう思っているんだ。

城戸が松元さんと沖縄に行ってしまうのか、それを確かめたいって思ってる。


――マコが言った“感情”って、これの事?


もしそうだとしたら、ろくでもない。


だってこれは……ただの嫉妬。

私が城戸と叶えられなかった願いを、松元さんが叶えようとしている事への嫉妬だ。


それに気付いた瞬間、城戸の視線が怖くなって、この醜い感情を、目の前の城戸に知られたくないって思った。


自分の感情の変化に戸惑いながら、思わず下を向き、唇を噛み締めた私に、城戸は追い打ちをかけるように、ポツリと言葉を落とす。


「知らねぇよ」

「……っ」

「何かあったら、携帯かけて。ちゃんと繋がるとこいるから」

その言葉に、カッと頭に上った血液が、一瞬でスーッと引いていくのが分かった。


そうだよね。

せっかくの二人の時間なんだから、仕事の同僚なんかに邪魔されたくないよね。


城戸の言葉は、きっと私を拒絶する言葉。

マコには、ホテルの番号を聞くように言われたけど……。


「わかった」

私はそれ以上、城戸に何かを聞く事なんて、出来なかったんだ。


今までだって、何度もあった事のはずなのに、どうしてこんなにショックを受けているんだろう。


「あー……そろそろオペ始めないと」

「助手は?」

「今日は、サチちゃんにお願いするから大丈夫」

「わかった」

まるで、その場から逃げるように立ち上がった。


どうして、笑ってるんだろう?

こんなにショックを受けているはずなのに、私はどうして笑っていられるんだろう。


「……」

そんなの、決まってる。


城戸とのこの関係を、崩したくないから――だから私は、出始めた感情をまた押し殺して、何事もなかったように笑っているんだ。


「じゃー、診察よろしくね」

「はいよー」


私は、ここが好き。

マコがいて、サチちゃんがいて、ミカちゃんと、コトノちゃんがいて……城戸がいる。


ここが好きだから。

だから、城戸との関係を私が壊すわけにはいかないんだ。



< 281 / 651 >

この作品をシェア

pagetop