犬と猫…ときどき、君
「こんな時間に、女一人で帰るつもり?」
「うん。だって、いつも一人で帰ってるけど平気だもん」
「あのな、危険ってのはいつやってくるかわからないから、危険なんだぞ?」
「でも大通り通って帰れば、絶対誰か歩いてるし」
「……」
「何?」
急に無言になった城戸春希を見上げる私の耳に届いたのは、ちょっと鼻で笑ったような彼の声。
「強情な女ー」
「はっ!?」
「まぁ、いいや。じゃー俺行くわ」
呆れたように溜息を吐き、振り返ってヒラヒラと手を振る。
急に素っ気なくなったその態度に、無意識ながら少しだけ胸を痛める私は、大概自分勝手だと思った。
「……ん。またね」
「おー」
私に背を向けたまま返事をして歩いて行った彼の背中をしばし眺めた後、自分の可愛げのなさに溜め息を一つこぼし、逆の方向に向かって歩き出す。
だってさ、昔から“男女平等”、“男に頼って当然の女になるな”って、そんな風に言われて育ってきたんだもん。
だからああいう時、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
私を送ったら、城戸春希はその分、時間を無駄にしてしまうワケだし。
「んー……」
ポテポテと歩きながら、さっきから口を吐いて出るのは、怪しい唸り声と溜め息ばかり。
もっと可愛い女の子になりたいなぁ……なんて、柄にもない事を思った時だった。
「――あれ?」
カバンから、微かに聞こえる携帯のバイブ音に気が付いた。
慌ててそれを取り出すと、ぼんやり光るディスプレイには、
【着信中 城戸春希】
そんな文字が。
「……はい、もしもし?」
さっき別れたばかりの彼からの着信に、何故か恐る恐るになってしまった私の声。
だけど、それに気付いているのか、いないのか。
「おー。今どの辺?」
耳元で聞こえたのは、城戸春希の、さっきよりも少し柔かい声だった。