犬と猫…ときどき、君
「はぁー……」
片付けを終え、病院を出た一時間後。
私は一人、溜め息を吐きながら、真っ暗な道を歩いていた。
普段だったら、こんな道を一人で歩こうだなんて、絶対に思わないのに。
きっと今日は、疲れで神経が麻痺しているんだ。
そもそも、そうじゃなければ、こんな所に来ようと思うわけがない。
「ホント、疲れ過ぎかも」
暗闇の中呟いた私は、もう一度小さな溜め息を吐き出す。
テクテク歩き続けると、でこぼこの道が緩やかな上り坂に変わる。
その先は、街灯もない牧草地。
見回す景色に、ドクンドクンと心臓が騒ぎ出すのは、歩き続けているからじゃなくて……。
「……」
あぁ、変わらない。
ここは全然変わっていない。
“その場所”に辿り着いた瞬間、私は息を飲んだ。
あの頃から、時間が止まっているのではないかという錯覚さえ覚えるその場所に、私の心臓は音を立てて軋む。
辿り着いた先は、城戸と付き合っていた頃にいつも一緒に来ていた、星の光が降り注ぐ、あの丘の上。
周りを星に囲まれながら、夜空に向かって大きく息を吐いた私は、そのまましばらく空を見上げていた。
私、何でこんな所に来ちゃったんだろう。
ゆっくりと視線を落とし、周りを見回す。
もう、何年ぶりかな?
その場に腰を下ろすと、ほんの少しだけ露に濡れる草が、スカートを濡らした。
「相変わらず、きれー……」
スカートを穿いている事なんて気にも留めずに、コテッとその場に倒れ込む。
今にも零れ落ちて来そうな星空に手を伸ばすと、
「――……っ」
こめかみを、温かい涙が伝った。
「疲れたなぁー」
ポツリと呟いた後、仰向けだった身体を横に向け、静かに瞳を閉じる。
草の香りに包まれながら、閉じた瞼に浮かぶのは、私に怒りをぶつけた城戸の顔。
それに、ハナちゃんに最後のお別れをしていた時の顔。