犬と猫…ときどき、君

「城戸、ごめんね」

瞳を閉じたまま呟いた、その言葉は、暗闇に溶け込むはずだった。


――それなのに。


「本人いねぇところで謝っても、しょうがなくねーか?」

「……っ」

するはずのないその人の声に、私は慌てて飛び起きたんだ。


どうして……いるの?


坂になっている、暗く続く道。

ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、そこに立っていた城戸に、私は驚きすぎて、言葉を発する事さえ出来なかった。


それなのに、当の城戸はというと。

「いい眺め」

「は?」

「パンツ丸見えだけど」

「うそっ!?」

「嘘」

慌ててスカートを直した私に、飄々とそんなバカみたいな嘘を吐く。


「お前さ、こんなとこで寝てたら“襲って下さい”って言ってるようなもんだぞ?」

「……何でいるの?」

「無視かよ」

「何でいるの!?」

いつまでもふざけている城戸に、私はつい声を荒げる。


そんな私に困ったように笑った城戸は、頭をカリカリと人差し指で掻きながら、小さな声で言ったんだ。


「さっきの事、ちゃんと謝りたくて」

“謝りたくて”って……。


「どうして?」

「んー?」

「どうして、ここにいるってわかったの?」

そう。
一番知りたいのは、そこ。


眉間に皺を寄せながら瞬きを繰り返す私を見て、何が楽しいのか、フッと笑った城戸は……

「わかるよ」

屈んで私の顔を覗き込みながら、そう言ったんだ。


近すぎるその距離に、胸の鼓動が一気に速まる。


「お前んち行ったんだけど、いなかったから」

「え? うち?」


――何をしに?

ますます深くなった眉間に皺に、城戸は“皺消えなくなるぞ”なんて、失礼すぎる言葉を口にする。


「俺も久し振りに、星見たくなった」

「……」


「お前と別れてから、初めて来たかも」

「……ふーん」

何でそういう事を、平気で言うかなぁ。


だけど、ちょっと胸がモヤッとして不貞腐れる私に、城戸はその綺麗な指をそっと伸ばして。

目の下の辺りをスッと撫でる。

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