犬と猫…ときどき、君
「今野」
「あー、はいはい。分かったよ」
何故か今野先生を睨み付けた城戸と、何が楽しいのか、そんな城戸を見て笑う今野先生。
会話に入れない私は、眉間に皺を寄せながら、二人のやり取りをポカンと眺めるしかなくて。
「芹沢先生、飲み物決めました?」
「あ、えっと」
今野先生の言葉に、慌ててメニューに視線を落とした。
「じゃー、烏龍茶を」
「あれ? 飲まないんですか?」
「あー……」
思わず口籠もってしまった私の代わりに、返事をしたのは、
「こいつ、酒癖悪いんだよ」
私の手から、メニュー表をスッと引っこ抜いた城戸。
「へぇ、意外! バリバリ飲めそうなのに」
「あー……あはは」
誤魔化し笑いを今野先生に向けた後、隣の城戸を睨み付ける。
だけど城戸は、私の視線に気付いているくせに、それを思いっ切り無視しやがった。
もー……。
何も、初対面の人にそんな事をバラさなくてもいいのに。
小さく唇を尖らせる私を見て、クスッと笑った今野先生は、一瞬、何かを確認するかのように城戸に視線をチラリと送り……。
私と目が合った瞬間、イタズラっ子のように笑った。
「……」
な、何だろう?
目をパチパチと瞬かせる私の目の前で、自分の手元にあった小さなプラスチックの何かを“トントン”と、叩いたんだ。
あー……。
そういう事か。
ホントに、この人は。
隣に視線を送ると、頬杖を付きながらメニューに見入る、城戸の姿。
相変わらずのその気遣いに、胸が少し温かくなって、少し……痛くなった。
今野先生が私に見せたのは、“終日全席禁煙”と書かれたプレート。
このお店を選んだのは、城戸。
この時間に、お酒が呑める場所だと、喫煙OKの所が殆どで。
“芹沢先生、煙草ダメ?”
さっきの質問は、今野先生が、城戸の私への気遣いに気付いたからだったんだ。