犬と猫…ときどき、君
「あれ? 知らない?」
「あ、ううん。知ってる」
私の鈍い反応に小さく首を傾げて瞳を覗き込む今野先生から、まるで逃げるように視線を逸らしてしまう。
こんな反応したら、おかしく思うじゃん。
きっと城戸は、今野先生に私達の昔の関係を話していない。
それなのに、私が取った行動は、まるで“勘ぐって下さい”と、言わんばかりの行動で……。
「――あのっ」
握りしめた手が、少し汗ばむ。
でも、慌てる私の耳に届いたのは……。
「相変わらずの反応だなー」
城戸が出て行った襖に視線を移した今野先生の、そんな言葉だった。
「へ?」
「あー、城戸のあの反応ね。一緒に働いてた時から、あーなんだよ」
“あー”って、どう?
「なんつーか、果てしなく素っ気ない」
「そう……なんだ」
でも、知ってるんでしょう?
城戸に彼女がいるってこと。
「今野先生って、城戸の彼女に会った事あるの?」
「あー、何回か病院に来た事あったからね」
そっか。
そうだよね。
チクッと痛んだ胸を誤魔化すように、笑顔を浮かべる私は……一体なに?
「大学の後輩なの。可愛いよね」
私、何言っているんだろう。
本当の事なんだけど、こんなに胸が痛むなら最初から言わなければいいのに。
取り繕ってバカみたい。
自分の意味のわからない行動に、心底げんなりする私だったけど、
「うーん。まぁ、そうだねぇ」
返ってきた今野先生の返事は何だか微妙なもので、思わずその顔を覗き込んでしまった。
「可愛いとは思うけど、城戸には合わない気がする」
「そう……かな?」
「うん。どちらかと言うと――」
そこで一旦言葉を止めると、まるで私の心の中を覗くように、今野先生は頬杖を付いたまま、私の瞳を真っ直ぐ見据えたんだ。
「……っ」
何だろう。
――この人は少しだけ……
「芹沢先生の方が、城戸には合ってる気がするけど?」
本当に少しだけだけど、城戸に似てる。
そうだよ。
だから初対面なのに、私はこんなにこの人と打ち解けることが出来たんだ。