犬と猫…ときどき、君
「城戸とは私は、ただの同期だよ」
イヤになる。
声は震えてるし。
「いっつもケンカばっかりしてるんだよ?」
俯いて見える視界は、滲んできちゃうし。
「城戸も私も、お互い恋愛感情はないの!」
――嘘じゃない。
だってこれは、恋愛感情なんかじゃない。
速くなってしまった胸の鼓動を鎮めようと、私は震える息を静かに吐き出した。
だけど、静かになってしまった部屋の中。
ほんの少しだけ気まずくなった私の前で、「じゃー、覚えといて?」と今野先生がカバンから手帳を取り出して、それに何かを書き込む。
「城戸には悪いけど」
それほぼ同時に、ページを破り取る音が個室に響き、戸惑う私の前に一枚の紙がスッと差し出された。
「俺はあの子よりも、芹沢先生の方がいいと思う」
「え……?」
「雰囲気でしか判断してないけど」
笑いながら、そんな風に言ったあと、
「もちろん、芹沢先生さえよければだけど……。向こうに戻ってから一緒にご飯でも行きませんか?」
今野先生はその目を細め、柔らかい、優しい表情で私を見つめたんだ。
「ホントは、城戸とそういう関係なのかなって思っててさ」
「……」
「だったら、こんな事すべきじゃないと思ってたんだよ。でも、違うなら問題ない」
「……どうして、そう思ったの?」
「ん?」
「城戸と私が、そういう関係なんじゃないかって」
私のその質問に、少し首を傾げた今野先生は、困ったように笑う。
「城戸が、妙に威嚇してくるから」
「え?」
――“威嚇”?
眉間に皺を寄せ、考え込む私とは対照的に、今野先生は何やら楽しそうに笑って。
「手ぇ出すなとか言ってみたり、見せ付けるみたいに、芹沢先生の好きな食べ物をわざわざ注文してみたり」
「……」
「オモチャを取られたくない、子供みたいだったから」
思い出し笑いをしながら、そう付け加えた。
そんなはずない……。
城戸と同じ、真っ直ぐなその瞳から逃れたくて、ゆっくり視線を落とすと、テーブルの上には、今野先生の携帯の番号とメールアドレスが書かれた白い紙。
「今野先生の予想、大外れだね」
戸惑いながらもそんな言葉を口にして、無理やり笑った私が、その紙に手を伸ばした瞬間、
「おー、お帰り」
「――……っ!」
襖がスーッと開いて、一瞬今野先生に向けられた城戸の視線が、私の手の先に落とされた。