犬と猫…ときどき、君


どうしてかは、分からない。

だけど、それを見られちゃいけない気がして、私は慌ててその紙を自分の手の中にしまい込んだ。


「遅かったな」

「……あぁ」

何事もなかったかのように城戸の視線は今野先生に戻され、さっきと同じように、私の隣にストンと腰を下ろす。


――気付かれていない?


一人ドギマギしながらそう思っていたけど……。


違う。

気付いてる。

城戸は気付いた上で、あえて何も言わなかったんだ。


「……っ」

別にそれを悲しいと思う必要もないし、自分が動揺する意味もわからない。

むしろそれが当然で、その方が都合がいいはず。

それなのに……何だろう?


この変な感情。

それに、城戸への負い目のような感情も加わって。


城戸は私を心配して、一緒にご飯に連れ出してくれて、わざわざ禁煙のお店を探してくれた。

その城戸の知らない所で交わした、今野先生とのコソコソとしたやり取りが、城戸に申し訳ないって、勝手に思ってしまったんだ。


今野先生から渡されたメモも、城戸がいないところで聞いてしまった松元さんの事も。


ノロノロと伸ばした手で、すっかり氷が溶けてしまった烏龍茶の入ったグラスを掴み、それを喉に流し込む。


「あーそう言えばさ、うちの院長に聞いたんだけど、次の薬科セミナーどこでやるか知ってるか?」

目の前で今野先生は、城戸が席を立つ前と変わらない様子で話を続ける。

下を向いてグラスを握りしめ、私はぼんやりとそれを聞いていた。


「あー、薬科はわかんねぇな。どこ?」

「沖縄だってよ」

「え……?」

城戸が、一瞬動揺したの分かった。


それは……そうでしょう。

私だって、思わず下げていた視線を上げてしまったもん。

< 314 / 651 >

この作品をシェア

pagetop