犬と猫…ときどき、君
どうしてかは、分からない。
だけど、それを見られちゃいけない気がして、私は慌ててその紙を自分の手の中にしまい込んだ。
「遅かったな」
「……あぁ」
何事もなかったかのように城戸の視線は今野先生に戻され、さっきと同じように、私の隣にストンと腰を下ろす。
――気付かれていない?
一人ドギマギしながらそう思っていたけど……。
違う。
気付いてる。
城戸は気付いた上で、あえて何も言わなかったんだ。
「……っ」
別にそれを悲しいと思う必要もないし、自分が動揺する意味もわからない。
むしろそれが当然で、その方が都合がいいはず。
それなのに……何だろう?
この変な感情。
それに、城戸への負い目のような感情も加わって。
城戸は私を心配して、一緒にご飯に連れ出してくれて、わざわざ禁煙のお店を探してくれた。
その城戸の知らない所で交わした、今野先生とのコソコソとしたやり取りが、城戸に申し訳ないって、勝手に思ってしまったんだ。
今野先生から渡されたメモも、城戸がいないところで聞いてしまった松元さんの事も。
ノロノロと伸ばした手で、すっかり氷が溶けてしまった烏龍茶の入ったグラスを掴み、それを喉に流し込む。
「あーそう言えばさ、うちの院長に聞いたんだけど、次の薬科セミナーどこでやるか知ってるか?」
目の前で今野先生は、城戸が席を立つ前と変わらない様子で話を続ける。
下を向いてグラスを握りしめ、私はぼんやりとそれを聞いていた。
「あー、薬科はわかんねぇな。どこ?」
「沖縄だってよ」
「え……?」
城戸が、一瞬動揺したの分かった。
それは……そうでしょう。
私だって、思わず下げていた視線を上げてしまったもん。