犬と猫…ときどき、君
「演者、松元先生だけど。聞いてねぇの?」
「……知らね」
――松元先生。
それってきっと、松元さんのおじいちゃんか、お父さん。
「俺は病院から旅費出るからいいけど、そっちは自腹と同じだもんな。金かかってしょうがねぇよなー」
「まぁな」
「俺行く予定なんだけど、二人は行けそう?」
「……」
「私は、行かないと思う」
何も言わない城戸よりも早く、そう口にしたのは下を向いたままの私で。
「あんまり病院休みに出来ないし」
「……」
「城戸、行ってくるといいよ!」
笑いながら顔を上げれば、案の定、そこには私を真っ直ぐ見据える城戸の瞳。
だって、松元先生が演者なら、松元さんだって一緒に来るかもしれない。
そう思ったら、そこにいるべきなのは私じゃないと思った。
心の中を見透かされそうなその瞳から逃れるように、私は今野先生に視線を移す。
「やっぱり何か飲もうかなぁ。メニュー、取ってもらっていい?」
本当は、お酒なんか飲みたいわけじゃない。
だけど、城戸と二人きりで帰るのに、シラフでは何となく帰りにくい感じになってしまったから。
「決まったら俺のと一緒に注文するから、教えて」
「うん、ありがとう」
城戸が今、どんな表情をしているのか……。
それを真っ直ぐ見つめる、勇気がない。