犬と猫…ときどき、君
「芹沢」
「ん~?」
「大丈夫か?」
「何が~?」
「“何が~?”じゃねぇだろ」
「えへへ。水炊き、美味しかったねー!」
「……」
食事を終えて、あのお店を出たのが、ほんの数分前。
呆れ顔の城戸に笑顔を向けた私は、ほろ酔いでイイ気分。
「じゃー、また明日」
そう言ってにっこりと眼鏡の奥の瞳を細めた今野先生の背中を見送った私達は、ホテルに向かって、まだ人がたくさん行き交う繁華街を歩いていた。
「どこ行くのー? 帰り、あっちだよー?」
来た道は、真っ直ぐだったはず。
それなのに、目の前を歩く城戸が、急に一本逸れた横道に入って行く。
薄暗いその道に、少し戸惑うものの、一人で帰るワケにもいかないし。
「ねぇー! どこ行くのー?」
「近道」
「へ?」
「こっち行った方が近い」
私の声に振り返った城戸は、そう言いながらその道の先を指さした。
「えぇ……」
嘘くさいんだけど。
そう思った私の思考を読んだ城戸は、「方向音痴のお前と一緒にすんな!」と溜め息混じりに言うと、スタスタと、その道を奥に向かって歩き始めた。