犬と猫…ときどき、君
「城戸は元気?」
「うん。相変わらず人の言うこと無視して、朝から晩まで病院にいるよ」
「そっかー。それじゃー彼女も大変だな」
「そうだね……」
きっと、今野先生は鈍い人じゃない。
だからもしかしたら、私と城戸の関係に気付いていながら、知らない振りをしているのかもしれない。
「まぁ、相手も獣医だったら、その辺は理解はしてくれるか」
「んー……。だといいんだけど」
「何だ、その微妙な反応」
「まぁ、色々とね」
松元さんは、大学を卒業した後、すぐにお祖父さんの病院で働き出した。
だけど、好きな日の、好きな時間だけ働いて、“フレックス獣医”として好き勝手やっていると、マコから聞いていた。
そんな松元さんを“獣医”と呼んでいいのかも、城戸の仕事を理解しているのかという事も、正直、よく分からない。
「ふーん」
私の二度目の微妙な返しに、少しその唇を尖らせた今野先生は、「やっぱ、城戸とあの子は何か違和感あるなぁ」と不満げに呟いて。
そのあと、「あ、ここだ」と通りに面した白い外壁にイタリアの国旗が飾ってある、そのお店を指さしたんだ。
結局その後、今野先生は城戸の事に触れてくる事はもうなかった。
お店に入って、窓際の席に通され、前回と同じように渡されたメニューを見れば、それは舌を噛みそうな名前が並ぶワインリスト。
「今野先生?」
「んー?」
「これ、ワインリストなんだけど」
「うん。たまには飲んだら? あ、もしかして、ワイン嫌い?」
いや、そうじゃなくて。
思わず浮かべてしまった、困惑の表情。
その表情を見て何かに気付いたように二、三度頷くと、今野先生は頬杖を付いたまま私を見上げ、言ったんだ。