犬と猫…ときどき、君

「あんた達といると、変な感覚に襲われる。胡桃はまだしも、城戸がまるっきりあの頃のままなんだもん」

「……え?」

「わざとそうしてるんじゃないかって思うくらい、そのまんま」


――わざとって、どういう意味?


「ごめんマコ、よくわからないんだけど」

「……」

「マコ?」

私に一瞬視線を向けた後、マコは目の前のプレパラートケースの蓋をパタンと閉めた。


「あんなの……胡桃が、わざと城戸の事を忘れられないようにしてるみたいじゃん。だから、城戸が許せない」


いつも私の傍にいてくれたマコ。

そのマコに、こんな想いをさせたのは……私と城戸。


「マコ、ごめんね?」

「……」

「でもマコは、城戸のこと嫌わないで」

「……嫌いなワケじゃない」

「うん」

「だけど、あの時の事は今でも許せない」

「ごめん」

私の言葉に、マコは下唇を少し噛んで、自分を落ち着けるように長い息を吐き出す。


「胡桃は城戸のことを引きずってると思ってたし、城戸も……ワケわかんないけど、未だに胡桃のことが好きなんだと思ってた」

「それは違うよ」


少なくとも、城戸は違う。


「でも、胡桃が先に進むつもりなら、それがいいと思う」

「うん」


そうだよね。

きっとそれは、私の為でもあるし、城戸の為にもなる気がした。

私がこんな状態だから、きっと城戸は私を放っておけないんだ。


私がちゃんと先に進んだら、きっと城戸も……。

もうあんな風に、私に優しく触れたりはしなくなる。


そしたら私だって、もう心をかき乱されることもなくて、

「……っ」

こんな風に、意味もわからず胸を痛める事だって、なくなるんだ。


だから、これでいいんだよね。

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