犬と猫…ときどき、君

新入生歓迎コンパ明けの月曜日。


「芹沢サン! おっはよ!」

「篠崎君。おはよう」

後ろから掛けられた声に振り返ると、そこには朝からニコニコ顔の篠崎君と、今日も眠たそうに大アクビをする城戸春希の姿があった。


「城戸君も……おはよう」

先週末、結局家に着くまでずっと話をしていてくれた城戸春希の、時々出す耳をくすぐるような柔かい声を思い出して、少し緊張しながら声をかけた。


「おはよ」

「眠そうだね」

「おー……ねみーよ。一限に必修とか、マジでありえねーし」

下を向いて眠気を払うように頭を振ったあと、ゆっくり顔を上げる。

「……」

あぁ、やっぱりキレイな目だな……。


その瞳を真っ直ぐ見つめると、そのまま目を逸らす事なく、城戸春希がまた口を開いた。


「芹沢さん」

「え?」


――“芹沢さん”?


「遅れるよ」

先週末は“胡桃ちゃん”って、そう呼んでいたのに。

何で、急に?

そう思うのと同時に、この前少し近づいた気がした距離を否定されたような気持ちになって、一瞬言葉に詰まってしまう。

そんな私の様子に気付いていないのか、今度は私を覗き込むようにして同じ言葉を繰り返す。


「芹沢さん?」

「あ、うん」

「どした?」

「ううん。……何でもない」

「そ? じゃー、早く行こ」

そう言うと、もうすでに教室に続く廊下の先を歩きながら「遅刻するぞー!!」と、後ろを振り返る篠崎君の元に歩き出した。


――どうして“芹沢さん”?


呼び方なんて、別に何だっていいのに……。

妙にそれが引っ掛かるのは、今まで他の人に感じていた“壁”のような物を、初めて感じなかったその存在の出現が、きっと凄く嬉しかったから。

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