犬と猫…ときどき、君
「ちょっと城戸!! どういう事よ!?」
「マ、マコ! 落ち着いて!!」
「落ち着けるかっ!! 何なのあの女!! 何で胡桃があんな事言われないといけないのよ!?」
診療を終えた医局で、マコが診察時間中から我慢していた怒りを城戸に向かってぶちまける。
腕を掴んでそれを制してみたけど、全く意味はない。
「何とか言いなさいよ!!」
食ってかかるマコにチラッと視線を向けた城戸は、そのまま面倒臭そうに視線を逸らして溜め息を吐く。
その様子に、マコがますます激怒して、もう手がつけられない状態だ。
「マコ、もういいから着替えてきなよ」
「でもっ!!」
「いいから行って!!」
まだ言いたい事を吐き出しきれていない様子のマコを、私は医局から無理やりしめ出した。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れるその部屋で、私は白衣を脱ぐと、それをロッカーにしまいこむ。
何だか凄く疲れてしまって、頭も上手く働かないし、わざわざ口を開く気持ちにもなれなかった。
こうして考えると、普段の私って、やっぱり城戸に気を遣ってるのかもしれない。
だってそうじゃなかったら、きっと疲れていたって言葉は普通に出るはずだもん。
「はぁ……」
城戸に聞こえない程小さな溜め息を漏らす。
私も着替えよう。
そう思って、ロッカーから取り出した服を胸に抱え込んだ。
「芹沢」
そんな私に、城戸は静かに声をかけて、
「何があった?」
その綺麗な瞳で私を見つめたまま、そう訊ねたんだ。
「“何があった”って、松元さんに聞いたでしょう?」
視線を合わせる事なく、俯く私はポツリと呟く。
「感情的になって、松元さんの事叩いちゃった。ごめんね……」
もう、疲れた。
こうして城戸の事を考えすぎる自分に、疲れてしまったんだと思う。
謝罪の気持ちは本当だけど、半ば投げやりに口にした言葉。
それを聞いた城戸が座っていたイスからゆっくり立ち上がる気配がして、俯いたままだった私の前に、影を作った。
視線の先には、城戸の室内用のサンダル。
「お前を感情的にするような事を言ったのは、あいつだろ?」
「……」
「嫌な思いさせて、悪かった」
私の沈黙を肯定の意味に捉えた城戸が、頭上から言葉を落とす。
「ううん。平気だから」
城戸が謝らないでよ。
「じゃー、私も着替えて帰るね」
「……」
「お疲れ様」
だけど、それも当然か。
だってあの子は、城戸の彼女なんだから、その彼女の代わりに城戸が謝るのも普通の事なのかもしれない。
結局私は、顔を上げれないまま医局を出ると、マコのいるアニテク部屋に向かった。