犬と猫…ときどき、君
「ちょっと胡桃!! どういう事!?」
「どういう事も何も、そのまんまだよ」
「ちゃんと最初に手ぇ出しだのアイツだって言ったの!?」
「言ってない」
「はぁっ!? 何で!?」
予想通り、マコはアニテク部屋で着替えもせずに私を待っていた。
彼女の言葉に、のらりくらりと返事をしながら、私は着ていたスクラブを脱ぎ捨てる。
「言いたくなかったから」
「何でよっ!!」
「……」
「“城戸の為”とか言わないでよ?」
顔を顰めるマコから視線を逸らすように、シャツを手に取り頭から被ると、案の定、マコはますます声を荒げた。
「く~る~み~っ!! 話してくれないと、何も分からないよ!!」
マコの怒りは尤《もっと》もだと思う。
私だって、マコが誰かに同じ事をされたら、同じように怒ると思うし。
――だけど。
「ごめん、マコ」
「え?」
「私ちょっと、疲れちゃったみたい」
「……」
「ごめんね」
心配してくれるマコの前で、理由も話せないくせに涙を流す私は、一体どうしたいんだろう?
「胡桃」
「うん」
「あんたさ、このままでいいの? このままじゃ、どんどんおかしくなる気がするけど」
俯いたまま何も言えないでいる私に突き刺さる、マコの真っ直ぐな瞳。
「胡桃はこれから、城戸とどんな関係でいたいの?」
「え?」
「それをちゃんと決めたら、答えも出るんじゃないの?」
「……」
「それが、いつも言ってるみたいに“ただの友達”なんだとしたら、あの女が嫌がるような余計な事はしない方がいいと思う」
「うん……」
「だって、あんた達三人の関係って、そんな簡単なもんじゃないでしょ?」
「……」
「じゃー、お疲れ」
着替えを終えてロッカーを閉め、部屋を出て行くマコの後ろ姿を、私は何も言えないまま見送った。