犬と猫…ときどき、君
「胡桃ちゃん」
マコの後ろ姿を眺めていた私は、後ろからかけられたその声に慌てて振り返った。
「友達出来てよかったな」
「城戸君?」
「おー。……なに? 何か付いてる?」
今度は“胡桃ちゃん”。
何だかよくわからなくて、その顔を凝視する私に落とされるのは、気が抜ける程にすっとぼけた城戸春希の言葉。
「あれ? どうした?」
「何で」
「ん?」
「今朝は“芹沢さん”だったの?」
「……」
「何で、今は“胡桃ちゃん”?」
見上げながらした質問に、城戸春希は私の目をじっと見つめて首を傾げる。
「嫌だった?」
「嫌だったっていうか、ちょっとショックだったっていうか」
「“ショック”?」
「うん。だって、ちょっと仲良くなれたのかなって思ってたから」
自分の思っている事を取りあえず口にしてみた私に、城戸春希は困ったようにポツリと言ったんだ。
「あんたの、そういうトコのせいだろ」
「は?」
“そういうトコ”……とは?
多分、彼的には私の質問への回答のつもりだったのだろうけれど。
全く意味がわからない。
けれど城戸春希は、眉を顰める私になんかお構いなしに、首を傾げたまま視線を落とす。
「よく、わかんない」
「おー、そっか。ドンマイ」
「……」
「ん?」
すっとぼけて!!
ホントに……ムカつく。
その適当な回答に、睨みつけるように彼を見上げた。
すると目が合った瞬間、彼はその真っ黒な瞳をちょっと細めて、フッと笑って言ったんだ。
「――“あの日”言った事、忘れた?」
“次会った時、俺が変でも、今日の俺がいつもの胡桃ちゃんに対する俺だから”――それってきっと、その事。