犬と猫…ときどき、君
「忘れてないけど……」
「よしよし」
私の返事に、城戸春希は満足げに口元を緩める。
だけどやっぱり、私は納得いかなくて。
「じゃー、今の城戸君は?」
「ん?」
「どっち?」
その問い掛けに目を瞬かせると、彼は優しい笑みを浮かべながら言ったんだ。
「これは、いつもの俺」
「……っ」
普段の彼は、無愛想とまでは言わないけれど、いつも気怠げな様子で、アクビばっかりしていて……。
だから余計に、こんな柔らかい笑顔を向けられると、どうしても鼓動が速まってしまう。
――なに、これ。
いつまでも治まらない自分の胸の反応に驚いて、ドキドキと音を立てる当たりをギュッと握る。
コクリと息を呑んだ私の目の前には、相変わらず私の瞳を真っ直ぐ見つめる彼の姿。
「まぁ、大した理由じゃないから心配すんな」
そう言ったあと、スッと伸ばされた長い指が、私の髪をさらりと撫でた。
「……」
本当に、心臓に悪い。
「あのさ、」
「――胡桃?」
私の頭に手を乗せたまま、城戸春希が何かを口にしかけたその時、私を呼ぶもう一つの声が重なって聞こえ、その肩越しに見慣れた人の顔を見つけた。
「聡君!」
それに驚いたような表情を浮かべた城戸春希は、ゆっくりとその手を私の頭から下ろす。
見上げた先の城戸春希の視線は――「先行ってて」と、声をかけて、ゆっくりとこっちに向かって歩いて来る聡君をじっと見据えていた。
「同じ大学なのに、なかなか会えないな」
「ホントだねー」
「……」
「えっと、胡桃の友達?」
そう言いながら、私から城戸春希に視線を向けた聡君。
「あ、うん。同じクラスの城戸君」
「そっか。良かったな、友達出来て! どうも。胡桃がいつもお世話になってます」
一歳しか違わないのに、いつまで経っても私を子供扱いする聡君は、いつも通りの笑顔を浮かべている。