犬と猫…ときどき、君
「芹沢にも、みんなにも、嫌な思いさせて悪かった。もうあいつに、あんな事は絶対にさせないし、この病院にも来させないから」
次の日の朝、いつも通りのミーティングで、「ちょっとごめん」と、口を開いた後、そう続けた。
俺のせいで、ここ数日の病院の雰囲気は本当に最悪で……。
「本当に悪かった」
ゆっくりと頭を下げた俺。
――これは謝罪で、ケジメ。
ずっと考えていた。
どうしたら、きちんと自分の気持ちを整理出来るんだろうって。
諦めようと思っても、気が付いた時には胡桃を目で追っていて、“あー、やっぱり好きなんじゃん”って、再確認して、その繰り返し。
元の気持ちが強すぎる分、そんなんじゃダメなんだ。
昨日、一人で頭を冷やして考えて、やっぱりあの女が自分の彼女なんだって事を、受け入れないといけないと思った。
それを他のやつらに伝える事で、俺の気持ちを抑えるストッパーになるはず。
どこまでも他人本位な自分が嫌になるけど、こうでもしないと抑えきれない程、胡桃の存在は大きいんだ。
「また来たら、顔見た瞬間ぶん殴るから」
俺の頭上から、椎名のそんな言葉が落とされて、
「はい! もうこの話しは終わり!! さっさと診察始めよう!!」
やっぱりこいつは、篠崎の彼女だなーなんて、少しだけ笑いが漏れた。
そんな俺に「何よ!?」なんて、睨みをきかせたりしてるけど、こいつはホント、男前でイイ奴。
「ハルキ先生、第三診察室お願いします」
少し不貞腐れながら俺を見上げて、そう声をかけてきたサチちゃんも、二人揃ってモジモジしながら謝ってきた、ミカちゃんと、コトノちゃんも。
本当にいい子達だから、尚更俺は、あの女と別れるワケにはいかない。
「はいよー」
小さく笑いながら、カルテに視線を落とす。
“いつまでこんな事、続けんだ?”
ここ最近、頭の中でずっと回り続けている、篠崎の言葉。
――これが正しいのか、正しくないのかなんて正直分からないけどさ。
「胡桃先生! そっちじゃないですっ! 先に第一診察室ですってば!!」
「え!? ウソ!!……すみません鈴木さん! 間違えましたっ!! もうちょっとだけ待ってて下さいね!!」
「もー、ホントおっちょこちょいですよねぇ」
「あははっ! ごめんごめん。間違えた!」
楽しそうに働いてる胡桃や他の子達を見ていたら、これでいいんだって思えるんだ。