犬と猫…ときどき、君
「……どーも」
ニコニコ顔の聡君とは対照的に、さっきまでの柔かい笑顔をどこかに引っ込めた城戸春希は、ちょっとだけ聡君に頭を下げて。
「胡桃ちゃん、俺もう行くわ」
クルリと後ろを向くと、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
あれ?
そういえば、さっき何を言いかけたんだろう?
「珍しいな」
「え?」
城戸春希との中途半端な会話の続きを気にしていた私は、聡君の声にハッとして顔を上げた。
「“胡桃ちゃん”」
「あー……。何かね、城戸君だけ時々そう呼ぶんだよ」
「時々?」
「うん。今朝は“芹沢さん”って呼ばれたし」
「ふーん」
「意味わかんないんだよね」
ちょっと笑って聡君を見上げると、彼はは城戸春希の歩いて行った先を、じっと見つめていた。
「聡君? どうしたの?」
「いや、別に。それより、今日晩メシ一緒に食おう」
「……おごり?」
「ハイハイ。おごります、おごります」
「やったぁー!」
この頃の私が、唯一甘えられる存在だった聡君。
聡君は人の出す空気に敏感だから、きっとこの時、色んな事に気付いていたんだね。