犬と猫…ときどき、君

「……どーも」

ニコニコ顔の聡君とは対照的に、さっきまでの柔かい笑顔をどこかに引っ込めた城戸春希は、ちょっとだけ聡君に頭を下げて。

「胡桃ちゃん、俺もう行くわ」

クルリと後ろを向くと、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。


あれ?

そういえば、さっき何を言いかけたんだろう?


「珍しいな」

「え?」

城戸春希との中途半端な会話の続きを気にしていた私は、聡君の声にハッとして顔を上げた。


「“胡桃ちゃん”」

「あー……。何かね、城戸君だけ時々そう呼ぶんだよ」

「時々?」

「うん。今朝は“芹沢さん”って呼ばれたし」

「ふーん」

「意味わかんないんだよね」

ちょっと笑って聡君を見上げると、彼はは城戸春希の歩いて行った先を、じっと見つめていた。


「聡君? どうしたの?」

「いや、別に。それより、今日晩メシ一緒に食おう」

「……おごり?」

「ハイハイ。おごります、おごります」

「やったぁー!」


この頃の私が、唯一甘えられる存在だった聡君。

聡君は人の出す空気に敏感だから、きっとこの時、色んな事に気付いていたんだね。

< 39 / 651 >

この作品をシェア

pagetop