犬と猫…ときどき、君
「うん。病院午前中で閉めて来たから」
「……」
「……ん?」
急にその声が聞こえなくなって、思わず携帯の画面を覗く。
通話中だよね?
「もしもし? サキ?」
「あー、ごめん。聞こえてる」
「なんだ。急に黙るから、何事かと思った」
笑いながらそう口にした私だったけど、次にサキの口から発せられた少しテンションの下がった声に、一瞬言葉に詰まってしまった。
「てかさ……胡桃、城戸と同じ病院にいるってホント?」
「……」
「ねぇ、ホントなの?」
「うん。ホントだよ」
このあと言われる事は、分かってる。
「“ホントだよ”じゃないでしょ? 何考えてんの!?」
「サキ」
「大体、城戸も城戸だよ!! 一体どのツラ下げて……っ」
「サキ、あのね? 今、城戸も一緒なの」
「……え?」
心の底から“意味が分からない”――そんな声を出したサキに、私は言葉を続ける。
「城戸とはね、ちゃんと“友達”に戻ったの。私はこれでいいと思ってるから、サキも昔の事はもう忘れて?」
「胡桃……」
「心配してくれるのは凄く嬉しいけど、やっぱりこれは城戸と私の問題だからさ! サキは、城戸に会っても普通にして」
だって私は、もう城戸に対して昔抱いていたような感情は持っていない。
――“怒り”の感情も、“恋”の感情も。
私の言葉を聞いて、渋々だけど頷いてくれたサキと、明日の夜に会う約束をして電話を切った。
「野田、何だって?」
まるでタイミングを見計らったように部屋に戻った城戸は、ちょっと驚く私の目の前で煙草をカバンに放り込む。
「……繋がんなかった」
「……」
「うそ」
「お前、ふざけんなよ!! マジで慰めの言葉考えたじゃねぇかよ!!」
一瞬目を見開いた後、溜め息を零した城戸に笑いがこみ上げる。
「あはは! 篠崎君も来るって言ったら、他の同期も集めて明日の夜飲もうって」
「おー、いいな」
「城戸はどうする?」
そう聞いてから、ハッとした。
だって、これってまた“余計な心配”だもん。
「……行ってもいいなら行くけど」
でも、城戸が考えている事はそれじゃなかった。
「行っても平気?」
城戸が考えていたのは、サキや私と仲が良かった他の女の子たちの事。