犬と猫…ときどき、君
「もちろん。一緒に行こ!」
「おー。篠崎までそっち行ってんなら、俺一人ぼっちだし」
そう言って少しホッとしたように、だけどそれを隠すみたいに、城戸は冗談めかして笑った。
だけど、そうだよね。
松本さん、おじいさんと一緒に来てるって言ってたし。
演者だから、主催の製薬会社さんとお食事会とかあるのかも。
ぼんやりとそんな事を考える私の目の前で、城戸は備え付けの小さな冷蔵庫からペットボトルを二本取り出すと、その片方を私の前に差し出した。
「飲むか?」
「うん。ありがとう」
「いいえー」
ポーンと放り投げられたそれを、少し火照った手の平で受け取る。
「……」
あぁ、まただ。
何で“今”こんな事を思い出すんだろう。
目の前で城戸は、プラスティックの蓋をカチカチと開け、それを数口くちに含むと、ペットボトルをくるくる回して泡が回る水を見つめる。
「どした?」
「ううん……。何でもない」
――それは、あの夏。
私が初めて城戸に抱かれた夜に、城戸が見せた子供のような癖。
「――っ」
ぼーっとその様子を眺めていた私と、もう一口の水を口に含む城戸の視線が絡まった瞬間、私の胸はおかしな音を立てたんだ。
変わらない城戸のその仕草に、憶えたのは、戸惑いと……わずかな喜びだった。
――意味が分からない。
息を飲んで、握る両手に力がこもる。
自分のよく分からない感情に戸惑う私の目も前で、城戸はヒョイっと屈んで小首をかしげる。
「メシ、どっか食いに行こ」
そしてまるで何も気づかない様子で、そんな言葉を口にした。