犬と猫…ときどき、君
それから私と城戸は、さっきと同様に平謝りするフロントのお姉さんに鍵を預け、ホテルからいったん外に出た。
「あっちーなぁ」
ドアをくぐった瞬間、顔に纏わりついた湿度の高い空気に、城戸が少し顔を顰める。
「ホントだね。何時まで暑いんだろ?」
ポツリと呟きながら、何となく夜空を見上げた。
「芹沢?」
「あー、ごめん。何でもない! どこ行こうか?」
いつの間にか、私の視線を辿るように空を仰いでいた城戸にハッとした。
「……ホテルでメシ食えるとこ聞いてくれば良かったな」
ほんの少しだけ口角を上げて笑った城戸は、気付いてる?
気付いていない?
見上げた空には、うっすらと帯を伸ばす天の川。
さっきから、どうしてこんなに昔のことを思い出すんだろう。
それはきっと、ここが沖縄で、隣にいるのが城戸で……。
最近色々あって、頭が少し混乱しているから。
だからこんな風に、思い出してしまうんだ。
私に落とされた城戸の視線から逃げるように、何気なく携帯を取り出す。
それはそれで気まずいけど、とにかくどこか行く場所を探さないと。
そう思ってゆっくりと折り畳みの携帯を開いて、ウェブサイトにつなぐ。
「どっか、いい所ありそ?」
同じように携帯をピコピコといじっていた城戸が、私の携帯をヒョイと覗き込んだ瞬間、小さな振動と共に、その画面が切り替わった。
「あ……」
白い背景に浮かび上がったのは【着信 今野先生】の文字。
どうして、このタイミングで……。
「……」
「早く出ねぇと、切れるぞ」
携帯を握りしめ、画面を見つめたまま動けずにいる私から、城戸が少し距離を取る。
低い音と共に、振動を続ける携帯。
そこに落としていた視線をゆっくり上げれば、さっきと同じように、少し離れた場所で自分の携帯をいじりながら、平然とご飯を食べる場所を探している城戸の姿が映った。
――そうだよ。
城戸にとっては、こんなの気に留める必要もない、何でもない事。
息をゆっくりと吐き出して、通話ボタンに親指を乗せると、それが小さく震えている事に気付いた。
今野先生とこうやって話をするのは、いつぶり?
あの誕生日の日も、結局電話をする事が出来なくて、プレゼントのお礼はメールで済ませてしまった。
そんな逃げるような事をしたから、尚更、この電話に出づらくなっているんだと思う。