犬と猫…ときどき、君

「城戸には、忘れてって言われたんだけど……」

城戸の背中を戸惑いながら見送った私の耳に、それまでとは違う今野先生の声が聞こえ、慌てて視線を戻す。


「ごめん。やっぱ気になって、無理っぽい」

そう言った今野先生の笑顔は、やっぱり少し困ったような笑顔。

私はそれに何も返事が出来なくて。


「一つだけ聞かせて」

「……」

「城戸と芹沢先生の関係って、ただの大学の同期で、ただの同僚?」

彼の言葉に、胸の辺りをスーッと冷たい何かが滑り落ちる。


「――って、ごめんな。俺、関係ないのにな」

今野先生のその表情に、自分の唾を呑む音が、自棄に大きく聞こえた。


“関係ない”?

違う。そんな事ない。

今野先生をこんな風に巻き込んで、関係を持たせたのは、私だ。


私が、城戸とのこの中途半端な関係から抜け出したくて……。

好きな人が出来たらって、そんな風に思ってしまったから。


「ごめん、やっぱ聞かなかった事にして。俺もう一杯飲むけど、芹沢先生は?」


気を取り直したように、メガネの奥の瞳を細めて笑う今野先生は、こんなに優しいのに。


それを利用しようとした私は……最低だ。


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