犬と猫…ときどき、君


「何かあった?」

ホテルに戻る、まだ肌を湿らせるような暑さが残る帰り道。

隣を並んで歩く城戸が、自販機で買った缶コーヒーを傾けながら、そんな言葉を口にした。


「別に何も」

下を向いたまま、明らかに態度とは真逆の言葉を吐き出す私は、やっぱり上手に嘘がつけない人間なのかもしれない。


「ふーん」

城戸は絶対に私の嘘なんて見抜いていて、それでもその事を深く追求しないのは、きっと私がその事に触れて欲しくないって気付いているから。


福岡の時と同じように、城戸の言う“近道”を二人で歩けば、目の前には、申し訳ない程度の小さな公園が。


「お、また公園あったぞ」

「……うん」

「あれ? 今日は遊ばねぇの?」

こうやって、私をからかうような態度を取るのだって、城戸なりの気遣い。


「だって、今日は可愛いパンツはいてないし」

だから私も、こうやってその空気を乱さないようにって、思ってしまう。


「何だよそれ。つーか、誰もアラサー女のパンチラなんて期待してねーから」

「……ムカつく」

「くくくっ!」


楽しそうに笑う城戸だけど……。


「城戸?」

「んー?」

「……何でもない」

「何だよ、おい。気になるじゃねぇかよ」

時々、うわの空というか、何かを考え込むように天を仰ぐ。

だけどそれは、きっと私も一緒。


「お前、首疲れねぇの?」

「え?」

「空見すぎ」

「……そう、かな?」

やぱり気になって、つい空を見上げてしまう。


ここからでは、見えないことを知っているのに……。


「だって、暑いんだもん」

「は?」

「ちょっとでも涼しさを感じるようなもの見ないと、やってらんないのー」

あの頃、あんなにも城戸と見たいと思っていたサザンクロスは、ここからはどうしても見えない。


時間が出来たら、一人で見に行こう。

もう少し暗くて、もう少し空に近い場所に登って……。


そしたらきっと、見えるはず。

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