犬と猫…ときどき、君


それから四人でしばらく歩いて、到着した居酒屋さんの個室には、知っている顔が二人と、知らない顔が三人。

元々私は、人付き合いが上手い方じゃなくて、大学時代からそれは変わらない。


その“知ってる顔”だって、昔その人が城戸と一緒にいた所を見たことがある程度で、たぶん話たことはない……と思う。


その人達は当然、私と城戸が昔付き合っていたことを知っているから、一緒にやって来た私達を見て、一瞬驚いたような顔を見せた。


そりゃー、当然と言えば当然の反応だよね。

小さく溜め息を吐いた私は、取りあえず、知らない二人に「Bクラスだった芹沢です」なんて、当たり障りのない自己紹介をして席に着こうとした。


――したんだけど。


「お前、そっち」

そんな言葉と共に、私の背中をポンと押した城戸によって阻まれる。


「え? 何で? ここでいいよ」

「いいからそっち行けよ」

ぐいぐい押しやられる私の頭上には、エアコンの吹き出し口があって。


「……ありがと」

「はー? 何がー?」

きっとこの席は、煙草の煙が一番こない場所。


私のお礼に、すっ呆けたような返事をする城戸は、さっさとメニューを引っ張り出して「何にすっかなぁ」なんて、渋い顔をしている。


城戸って、何でこうなんだろう。

突き放すなら、突き放してくれたらいいのに、中途半端な優しさが胸をソワソワさせる。


「お前、ゲソ天食うだろ?」

「……うん。食べる」

「あっそ。じゃー、あとなに頼もっかなぁー……」

そんな言葉を口にしながら、隣に座る篠崎君とメニューを覗き込んだ。


その姿を見つめながら、思い出したのは、いつか今野先生に言われた言葉だった。


“城戸が、妙に威嚇してくるから”

“見せつけるみたいに、芹沢先生の好きな食べ物をわざわざ注文してみたり”


別にね、そんなんじゃないんだよ。

城戸のその行動に、深い意味なんて全然なくて。


「……はぁー」

やっぱり、何だかおかしい。

気にしなくてもいい小さな事まで気になって、頭がボーっとするし。


目の前で楽しそうにお酒を飲む同期達の様子を、溜め息交じりに、どこかぼんやりとした頭で眺めていた。


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