犬と猫…ときどき、君
お店に入って、一時間ほど経った頃。
お化粧を少し直して席に戻ると、みんなは個室の一カ所に固まって、誰が持ってきたのか、大学時代の写真を見るのに夢中になっていた。
少し酔っ払って頭がますますボーっとする私は、店員さんにウーロン茶を頼んだあと、テーブルの端でそれを待ちながら、みんなの様子を眺めてみる。
こうしていると、大学の頃に戻ったみたいで、小さな笑みが漏れる。
「芹沢ー」
「……はい?」
そんな私に背後から声をかけたのは、赤い顔をした“知らない顔”の中の一人。
しかも何故か、そのまま隣にストンと腰を下ろす。
「芹沢ってさぁ、社会人になって、随分変わったタイプ?」
「え?」
ろれつの回っていないその声に、私は驚きながら首を傾げる。
確かに、社会に出それなりに社交性は身に付いたとは思うけど……。
“若生《わこう》君”というらしいその人と、大学時代、私は一度もしゃべった事なんてない。
だから、なんでそんな事を突然言い始めたのかがさっぱり分からない。
「だって、大学の時も何かツンツンしてたしさぁー。みんな結構言ってたんだよー。“やっぱ、医者の家のお嬢様って感じだよなー”って!」
「……そう」
「そうそう! 取っ付きにいっつーか、話しかけたらシカトされそうだったしさぁ」
そう口にして、まるで私を観察するみたいに「随分変わったんだねー」と、ニヤニヤとした笑顔を浮かべている。
若生君が酔っ払っているのは、分かってる。
それに、自分が社交的じゃない事だって、嫌というほど分かってる。
だけど、そんな風に言われるのは、やっぱりショックで……。
まぁ、昔からそうだったから、慣れていると言えば慣れているんだけど。
ほんの少しだけ、胸の奥に重たい物が溜まって、すっかり氷が溶けてしまったグラスに手を伸ばす。
あーあ……、何だかなー。
目の前の若生君は、相変わらず絡んでくるし、頼んだウーロン茶はなかなかこないし。
小さな溜め息を零して、手元のグラスをカラカラと揺らす。
そんな私の正面に、誰かが座る気配がして、ゆっくりと顔を上げた。
「芹沢は変ってねーよ。お前らがそういうくだらねぇイメージを勝手に作っただけだろ」
「……」
「何だよ城戸ー」
「“何だよ”じゃねぇし。酔って芹沢にからむなよ」
そんな言葉で、若生君の話を終わらせたのは、他でもない城戸で……。