犬と猫…ときどき、君


「確かにちょっと、冷たいかな?」

冗談めかして、笑いながら口にしたその言葉だったけど、言った瞬間に後悔した。

だって目の前の城戸が、本当に一瞬だけ、あまりにも辛そうな顔をしたから。


「ほっとけよー」

その表情をすぐに消し、小さく笑いながら、テーブルの上のから揚げをつまむ。


だけど、笑ってない。

いつもの顔と……全然違う。

それなのに、隣の席の若生君は、そんな城戸の様子になんて全く気付く気配もない。


「そんなんだと、いつか捨てられるぞ?」

からかうように、そんな言葉を楽しそうに口にしている。


もう、無理かも。この空気。


「ごめん、私……サキのところ行ってくるね」

「おー」

逃げるように席を立った私に、城戸は返事はしたものの、視線を向ける事はなかった。


やっぱり来なければよかったのかな?

サキの隣で、楽しそうに昔の話をするみんなの様子を眺めながら、頭に浮かぶのはそんな事ばっかり。


もう来ちゃったわけだし、こんな事言っていてもしょうがないのは分かってるんだけど……。

それでもさっきの事は、私にとっては二重に触れて欲しくないところで。


しかも、城戸は私をかばってくれたのに、私は何も知らない二人の関係に勝手に口を挟んだ。

何も知らないなら、何も言わなければよかったのに……。


私はただ、若生君に、動揺を覚られるのが嫌だったんだ。


ホント、最低だよ。

小さく頭を振りながら、やっと運ばれてきたウーロン茶に口を付ける。


だけどこんな事、このあとに起る事態に比べたら、本当に何でもない事で……。


その時の私は、それに気づけるはずもなく、楽しそうにはしゃぐサキの隣で、取り繕ったような笑顔を浮かべていた。


< 410 / 651 >

この作品をシェア

pagetop