犬と猫…ときどき、君
「確かにちょっと、冷たいかな?」
冗談めかして、笑いながら口にしたその言葉だったけど、言った瞬間に後悔した。
だって目の前の城戸が、本当に一瞬だけ、あまりにも辛そうな顔をしたから。
「ほっとけよー」
その表情をすぐに消し、小さく笑いながら、テーブルの上のから揚げをつまむ。
だけど、笑ってない。
いつもの顔と……全然違う。
それなのに、隣の席の若生君は、そんな城戸の様子になんて全く気付く気配もない。
「そんなんだと、いつか捨てられるぞ?」
からかうように、そんな言葉を楽しそうに口にしている。
もう、無理かも。この空気。
「ごめん、私……サキのところ行ってくるね」
「おー」
逃げるように席を立った私に、城戸は返事はしたものの、視線を向ける事はなかった。
やっぱり来なければよかったのかな?
サキの隣で、楽しそうに昔の話をするみんなの様子を眺めながら、頭に浮かぶのはそんな事ばっかり。
もう来ちゃったわけだし、こんな事言っていてもしょうがないのは分かってるんだけど……。
それでもさっきの事は、私にとっては二重に触れて欲しくないところで。
しかも、城戸は私をかばってくれたのに、私は何も知らない二人の関係に勝手に口を挟んだ。
何も知らないなら、何も言わなければよかったのに……。
私はただ、若生君に、動揺を覚られるのが嫌だったんだ。
ホント、最低だよ。
小さく頭を振りながら、やっと運ばれてきたウーロン茶に口を付ける。
だけどこんな事、このあとに起る事態に比べたら、本当に何でもない事で……。
その時の私は、それに気づけるはずもなく、楽しそうにはしゃぐサキの隣で、取り繕ったような笑顔を浮かべていた。