犬と猫…ときどき、君
飲み放題の九十分が過ぎた頃。
「ねぇ、花火しない?」
そう口にしたのは、酔っ払って少し顔を赤くするサキだった。
それにみんなが賛同して、近くの量販店で季節から少し外れた特売の花火を大量に買い込んで……。
私と城戸が泊まるホテルに近い、小さな公園に来ていた。
メンバーはさっきと同じ九人で、さり気なく若生君との距離は保ったまま、それなりにそこに溶け込んだ私は、手に持った花火に火を点ける。
花火なんて、何年振りだろう。
シューシューと音を立てながら色を変えていく花火を見つめていると“炎色反応ってすごいなー”なんて思ってしまう私は、やっぱり可愛げがないのかも。
うーん。
しゃがみ込んで頬杖を付きながら、ついつい考え込む。
「眉間にシワよってるよー」
「……え?」
「何考え込んでんの?」
目の前にヒョコッとしゃがみ込んだのは、篠崎君……。
「あー、炎色反応についてちょっと」
笑いながらそう言えば「変わらないねー」なんて、楽しそうな笑顔を返してくれる彼にホッとした。
「篠崎君、ごめんね」
「へ? なにが?」
「マコに無理やり来させられたんでしょ?」
「あー……まぁ。でも、最終日まではいられないし」
急遽来ることになった篠崎君は、病院の調整が出来なくて、明日の夜には帰ってしまう。
それでも、すごく助かった。
「十分だよ。ありがとう」
ポツリと零したその言葉に、篠崎君が少し困ったように笑うのが見えた。
「ハルキと部屋一緒なんだって?」
「……うん」
「マコちんに言った?」
「うん。すっごい心配された。ってゆーか、何故か怒られた」
クスクスと笑いながらそう口にした私の顔をじっと覗き込んだまま、篠崎君は手に持っていた火の消えた花火を、土にゲシゲシとこすりつける。
「どうしたの?」
「いや、無理してないかなーと思って」
“無理”――してるのかな?
正直、よくわからない。
動揺はしてるけど、“無理”か……。
どうなんだろう?
「ほい。これ、七色に光るらしいよー。ホントかな?」
同じように、もうすっかり光を失ってしまった私の手の中の花火がスッと抜き取られ、替わりに差し出された花火を、笑いながら受け取った。
「何かね、ダメなんだぁ。ここに来てから、色々思い出したり、考え込んだり」
「……」
「私、少しおかしいかも」
再び明るくなった手元を見つめながら、つい本音が漏れてしまうのは、きっと篠崎君が、私と城戸のこれまでを全部知っているから。