犬と猫…ときどき、君
私がマコにそうするように、きっと城戸は、篠崎君に色んな話しをしているはず。
「色々聞いてるでしょ?」
「あー……」
目の前の篠崎君は、困ったように頭をかいて“うーん”と唸ったりしていて。
「ごめん。なんか、いっぱいいっぱいで」
「――芹沢、あのさ」
それは自嘲的に笑う私に、篠崎君が何を伝えようと、口を開いた瞬間だった。
「あれ? 芹沢先生?」
「……え?」
「偶然だな」
「今野……先生」
公園の、フェンスを越えた向こう側から私に声をかけたのは、今野先生だった。
同じ病院の先生なのか、今野先生と一緒に立ち止まる男の人が二人。
そして、私の手元の花火に視線を落とすと「考える事は、みんな一緒か」と笑いながら、私の元に近寄った。
突然の今野先生の登場に、ただ驚くばかりの私の横には、「あれ? 司ちゃんじゃーん!」なんて、城戸よりも親しげな愛称で今野先生を呼ぶ篠崎君がいて。
“司ちゃん”って……。
「篠崎君、知ってるの?」
「もちろーん。城戸が病院変わる前、よく飲みに行ってたし」
そんな事を、平然と言ってのける。
「司ちゃんも花火しに来たんだろー? 一緒やろーよ」
「おー。……混ざっても平気かな?」
篠崎君の言葉を受けて、今野先生が覗き込んだのは私の顔。
「あ、うん。大丈夫だと思う」
コクリと頷いた私に、眼鏡の奥の瞳を細めると、道で待たせていた二人の男の人達を呼び寄せた。
「うちの病院の獣医の、丸井《まるい》と鴨田《かもだ》」
「初めまして、芹沢です」
頭を下げて挨拶をする私の背後から、パタパタと駆け寄る足音がして、振り返ると、そこに立っていたのは……サキ。
「ちょっと胡桃っ!!」
篠崎君を押し退けるように割り込んだサキは、三人にニッコリ笑顔で挨拶をしたあと、隣にしゃがみ込んで耳元にその唇を寄せる。
「誰この人達!!」
「城戸が前いた病院の先生」
「マジ!? ちょっと、紹介してよ!!」
目をギラつかせるサキの表情に、さっき「彼氏にフラれた!!」と愚痴っていたのを思い出す。
でも、どうなの? それ。
私が今野先生をサキに紹介するのって、ものすごく微妙じゃない?
だけど、私の心配をよそに、
「あの、ちょっとポッチャリの人がイイ!!」
ポチャ専のサキがご指名したのは、今野先生の隣に立つ丸井先生だった。
「でも私、今野先生しか知らないよ?」
「えぇー。じゃーいいよ! 自分で頑張る~」
だったら最初からそうしたらいいじゃないかと思ってしまうセリフを口にしたサキは、そのまま極上の笑顔を浮かべて「野田ですー」なんて、早速丸井先生にアピールを開始した。