犬と猫…ときどき、君

私にはないその積極性に感心しながら様子を眺めていると、城戸の元に向かった篠崎君の替わりに、今野先生が隣にしゃがみ込んだ。


「よかった」

「……え?」

そう言って、少し困ったように笑い、私の顔を覗き込む。


「こないだ変なこと聞いたから、避けられたらどうしようかと思ってた」

クスッと笑った彼は、クシャリと前髪を握りしめ、その表情に、私の心臓がトクンと小さな音を立てた。


“城戸と芹沢先生の関係って、ただの大学の同期で、ただの同僚?”――今野先生が言っているのは、きっとその一言の事。


この前よりは冷静な頭でそれを思い出しながら、本当の事を話すべきかと、少し悩む。


でも、それを今野先生に話して、いい事ってあるのかな?


今野先生と付き合っているとかならまた状況は違うけど、もう終わった城戸との関係を、わざわざ話す理由が見つからない。

考えた末、結局私は、曖昧な笑顔を浮かべる事しか出来なかった。


「今野先生」

「ん?」

「プレゼント、ありがとう」

「あー、いえいえ。ごめんな、あんなんで」


やっと誕生日プレゼントのお礼を口にできた私に、目の前の今野先生はふわりと笑って、そんな返事をする。


今野先生がくれたのは、すごく綺麗な赤いボールペン。


「私、こっそり文房具オタクだから、嬉しかった」

「オタクなんだ」


クスクスと笑いながら手元の花火に落としたその視線を、私もゆっくりと辿る。


「赤と青、悩んだんだけど……。きっと城戸なら青を選ぶかなぁって思って」

「――え?」

「……ごめん。冗談だから、そんな顔しないで」


驚いて上げた視線が今野先生のそれとぶつかった瞬間、伸ばされた手の平が、私の頭をポンポンと撫でた。


「何かダメだなー。芹沢先生といると、ペースが乱される」

「……」

「俺、こう見えてもドSで俺様キャラのはずなのになー」

「……嘘でしょ?」

「あ、バレた?」


いたずらっ子のように笑う今野先生につられて、私もついつい、笑顔になる。


今野先生は、本当に優しい人。

私がこの前のことも、昨日のことも気にしないように、こうしてそれを、笑い話に変えてくれる。


この人と恋をする人は、すごく幸せなのかもしれない。

今野先生は、すごく穏やかな空気を持つ人で、城戸とはやっぱり少し違う。


城戸はどっちかっていうと、やんちゃ坊主というか、何というか……って、私なんで城戸と今野先生を比べてるんだろ。

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