犬と猫…ときどき、君
「ハルキさん!」
騒がしいはずの公園。
そこに響いたその声に、私は言葉を失った。
「ハルキさんにメールしたのに返事こないから、矢野さんにまでメールしちゃったじゃん!」
笑顔で、城戸の隣にピョコンと丸まるように膝を抱えてしゃがみ込んだのは……松元さんだった。
「おー、しーチャン場所分かってよかった!」
そう言いながら近寄ってきたのは、さっきまで一緒に飲んでいた“知らない顔”のうちの一人で……。
「城戸ー、彼女のメールにくらいちゃんと気づけよー。しーチャンもなんか言ってやれば?」
そんな、からかうような言葉を城戸にかける。
「いいんですよー! だってハルキさん、いっつも気付かないから、しー、もう慣れっ子なんです!」
少し膨れるように笑う彼女は、やっぱり可愛い。
「しーチャン、一人で来たの? 結構暗かったでしょう?」
何故か何も言葉を発しない城戸と、発することが出来ない私と今野先生。
そんな私たちの前で、松元さんと矢野君の話は続いていて……。
「あー、大丈夫です! 仲野君と一緒に来たんでー」
松元さんが口にしたその名前に、心の底から驚いた。
仲野君。
大学時代、同じ研究室のだった後輩で……松元さんが城戸と付き合う前の、彼氏。
私と城戸だって、元カレと元カノの関係で、それでもこうして今は友達なんだから、同じことが、松元さんと仲野君の間に起っていてもおかしな話ではない。
ゆっくり顔を上げた私の目に映ったのは、少し離れた所から私の視線に気付いて、小さく会釈をした仲野君の姿だった。
そのまま私たちの元に近寄ってくる彼に、なぜか胸騒ぎにも似た気持ちの悪い何かが込み上げる。
「お久しぶりです」
私を見つめがながら小さく笑った彼は、昔と変わらない。
色白で大人しそうな、やっぱり城戸とは正反対のその印象。
だけどさっきから、心臓の速い鼓動が治まらない。
「本当に、久しぶりだね。元気だった?」
「はい。芹沢さんも、お元気でしたか?」
「うん。元気だよー」
やっと浮かべた笑顔で仲野君を見上げる私の視界の端に、城戸と、その腕に自分の腕をからませてぺったりと寄り添う松元さんの姿が映り込む。
松元さんと仲野君が、どんな別れ方をして、今がどんな関係なのかはわからない。
だけど、やっぱり私には、松元さんの気持ちは分からないと思った。
私は、たとえ別れた相手であっても、その相手に今の自分の恋愛を覗かれるのは嫌だと思っていて……。
今の関係が、いい関係なのであれば、尚更。