犬と猫…ときどき、君
な、仲野君! 実験の方はどう? こないだどこかで論文見たけど、いい結果出てたよね」
自分でも、本当にわざとらしいと思う。
でも、自分が好きだった人のそういうところを見るのは、嫌なんじゃないかって……勝手に思ったから。
きっと、私の余計なお節介に気付いたのであろう仲野君は「すみません」と小さく口にした後、
「芹沢さんと城戸さんのデータに、すごく助けてもらってます」
そう言って、昔と変わらない笑顔を私に向ける。
だけど、一瞬下を向き、再び顔を上げた時にはその笑顔は消えていて……。
チラッと城戸と松元さんに視線を向けたあと、言ったんだ。
「芹沢さん。少しお話したい事があるんですけど、いいですか?」
――“話したい事”?
少し緊張を含んだようなその声に、私の心臓がまた騒ぎ出す。
「えっと、何だろ?」
ドキドキを隠しながら小さく笑いかけると、仲野君は少し困ったように視線を泳がせ、それを私の隣の今野先生に向ける。
「……あぁ、そっか」
そう言って立ち上がった今野先生は、戸惑う私の肩をポンッと叩くと、そのまま少し離れた所にいる同僚の元へと歩いて行った。
少しだけ、冷たい風が吹いた。
その風に髪が流されて視界を遮られた私は、そこにそっと手を伸ばす。
「芹沢さん」
「ん?」
「すみませんでした」
「……え?」
邪魔にならないようにと髪を手で押さえたままの私は、仲野君の突然の謝罪に困惑の声を上げた。
“すみませんでした”――その言葉に、もちろん心当たりなんてなくて……。
だけど考え込む私の目の前で、小さく息を吐いた仲野君が、その視線を城戸と松元さんのいる方向に向けたから。
あぁ、そっか。
きっと、松元さんをここに連れてきてしまった事を言ってるんだ。
単純で何も知らない私は、そんな風に思った。
「別に仲野君が謝る事じゃないよー。それに、私気にしてないから――」
“大丈夫”。
そう口にしようとした。
でも、その一言が外の空気に触れる事はなくて、替わりに聞こえたのは仲野君の声だった。
「違くて……っ!!」
今まで聞いた事のない仲野君の感情的なその声に、肩がビクッと跳ね上がる。
「……すみません」
「あ、ううん」
慌てて首を振りながらも、ただ事ではなさそうな彼の様子に、心臓の音が気持ち悪いくらい乱れ始めた。
ゴクリと飲み込んだ唾は、喉の辺りでつっかえている気がするし……。