犬と猫…ときどき、君
――どうしてこんなに、緊張しているんだろう?
手の平にしっとりとかいた汗が嫌に気になって、視線を落とした私の耳に届いたのは、
「――俺なんです」
仲野君の、そんな言葉で。
その次に続く一言に、私は言葉を失った。
ううん。
“言葉を失った”なんて、生易しいものじゃない。
この感覚を、何て言えばいいんだろう?
ドロドロと、どす黒い何かが体の中に流れ込んで、それが私の心臓を包み込み、握りつぶす。
本当に、そんな感覚だった。
「大学の時の、裏サイト……」
「――っ」
久しぶりに聞いたその言葉に、心臓が大きく反応した。
「あれを作って、管理してたの……俺なんです」
「……え?」
絞り出された仲野君の言葉に、私はただ呆然とその場に立ち尽くす事しか出来くて、そんな私に、彼は表情を歪める。
「すみません。謝って済む事じゃないのは、わかってるんです。でも――」
「……どうして?」
「え?」
カラカラの口を開き、やっと言葉に出来たその声に、目の前の仲野君は驚いたように目を見開く。
「どうして……そんな事を?」
だって、意味が分からない。
確かに仲野君の彼女だった松元さんと私は、あまりいい関係じゃなかったかもしれない。
でも、仲野君は違くて。
居室で一緒になれば、コーヒーを淹れて、一緒に話をして、実験中だって、あんなにたくさん楽しい話だってしてたのに……。