犬と猫…ときどき、君



どれくらいそうしていたのか。

倒れこむようにベッドに横になり、眠っていた私は、小さく響く、携帯のバイブ音で目を覚ました。

泣きすぎたせいか、頭にズシリと鈍い痛みが走る。


電気をつけたままの部屋で、どこかに置き忘れた携帯を探せば、窓辺のソファーの上でキラキラと光るそれが目に入った。


「……」

手に取って開くと、そこには【城戸 春希】の文字。


帰って来たんだ。

部屋のカギは一つしかないから、きっとカギを開けてとか、そんな電話だろう。


ボーっとする頭のまま、少しの間だけそれを眺めて、息を二、三度吐き出した私は、ゆっくりと通話ボタンを押した。


「――もしもし?」

「……」


あれ?

なんで無言?


「もしもーし? 城戸?」


不思議に思って、眉をしかめた瞬間、


「……胡桃」

「――え?」


私の名前を呼ぶ、城戸の声が聞こえた。


“胡桃”。

そう呼んだ城戸の声は、どこか鼻にかかったような声で……。


「ちょっと、城戸? どうしたの?」

「ドア開けて」

不審に思いながらも、ゆっくりとドアに向かって歩き、ロックを解除する。


「開けたよー」

「……」

そんなに厚くないドアだから、きっと外にいる城戸に、私の声は届いたはずなのに、一向に、目の前の扉が開く気配がない。


「城戸?」

おかしいなぁ。

首を傾げて、一瞬考え込んだけど、ドアの前に城戸がいるのは、気配で何となく分かる。


首を傾げながらゆっくりと手を伸ばし、ドアを開けた瞬間……。


「わっ!! ちょ、ちょっと! 城戸!?」


私の体に覆いかぶさるように倒れこんだ城戸の体を、何とか抱きとめる。


「悪い」

「はっ!?」

「飲み過ぎたっぽい」


そんな言葉を口にして、私からゆっくりと離れた城戸は、私の肩の辺りをポンポンと叩くと、そのままベッドに倒れこんでしまった。


「……」

信じられないほどお酒に強い城戸の、こんな姿を見るのは初めてで……。


城戸、どうしたの?


そう口に出来たらいいのに、“触れちゃいけない”って、心のどこかで警告音が鳴り響いている。


“胡桃”

城戸の声が、頭の中でぐるぐる回って、触れられた肩には、城戸の手の平の熱が残ったまま。


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