犬と猫…ときどき、君
ゆっくりと城戸が横になるベッドに近寄ってみると、すごく苦しそうに顔を顰めて息をしているから、起こさないように部屋を出て、フロントで氷枕を借りて戻った。
それをタオルでくるんで、城戸の頭の下に置く。
――ねぇ、城戸。
私ね、やっぱりおかしいのかも。
だって、城戸がこんな状態なのに、それでもこの部屋に戻って来てくれた事が、すごく嬉しいんだよ。
この辺のホテルが満室だったとしても、その気になればどこかのラブホテルとかに行って、松元さんと一緒に泊まる事だって出来るのに。
それなのに、「胡桃」って、私の名前を呼んで、この部屋に戻って来てくれた。
そっとベッドの上に手を付くと、小さくスプリングが軋む音がする。
顔を寄せて瞳を閉じた城戸を覗き込み、さっきよりも少しだけ落ち着いたその様子にホッとした。
「……」
“おかしいのかも”?
ううん。“かも”じゃない。
私、おかしいんだ。
目の前で眠る城戸の髪に指をからませて、昔みたいに少しくすぐったそうに笑うあなたに触れたいって……。
さっきから、そんな風に思ってる。
胸が痛くて、苦しくて。
こんなのまるで――……。
絶対に口にする事も出来ないし、してはいけないその想い。
ここにいちゃ、ダメだ。
湧き上がった気持ちを打ち消すように、小さく頭を振って……。
その場から離れようとゆっくり体を起こした私の手に、熱い何かが触れた。