犬と猫…ときどき、君
俺、何を……した?
バカみたいな速さで鼓動している心臓と、ヒリヒリ痛む左頬。
大きな音を立てて閉まるドアを、俺はただ呆然と見つめていた。
息を飲む俺の鼻をかすめるのは、さっきよりも少し薄くなった胡桃の香りで……。
「何してんだよ……っ」
自分のしでかした事のデカさに、唖然としながら、乱暴にベッドを殴りつける。
――胡桃を追いかけないと。
酒のせいで少し霞む視界。それを振り払うように頭を振って、立ち上がる。
だけど、そんな俺の耳に聞こえたのは“トントン”と、部屋のドアをたたく音だった。
胡桃?
いや、そんなはずない。
アイツはきっと、この部屋には戻ってこない。
そう考えただけで、胸がバカみたいに痛んで、苦しくて……。
大きく息を吐き出し、ドアの前に立った俺は、静かにロックを解除した。
「誰?」
「……俺。入んぞ」
俺の返事も待たずに開かれた扉の先に立っていたのは、篠崎だった。
――どうして篠崎が?
俺の横をスルリとすり抜けて、部屋の中にドガドガと入り込むその背中を困惑しならが眺めていると、部屋の真ん中あたりで立ち止まった篠崎は、困ったように頭をかいて溜め息を吐いた。
「芹沢が部屋変わってくれだと」
「……」
「お前、何してんだよ」
「……え?」
歪められた篠崎の表情は、何故かすごく苦しそうで。
「芹沢、目ぇ真っ赤だったぞ」
胡桃……。
「あいつ、何か言ってた?」
俺の質問に、篠崎は頭を小さく横に振って、さっきよりも大きな溜め息を吐き出す。
「何も言わねぇよ」
「そっか」
「……」
「何だよ」
一瞬黙り込んだ篠崎は、俺の目を真っ直ぐ見据えて、想像した通りのいつもの言葉を口にした。
「お前、いつまでこんなこと続けんの?。俺が言えた義理じゃないけどさ、こんなのおかしいだろ!?」
いつも穏やかな篠崎が、こうして声を荒げる事なんてほとんどなくて、その分、篠崎の気持ちが痛いほどに伝わってる。
だけど俺は、いつものように自嘲的な笑いを浮かべて、やっぱり同じ答えを返すんだ。
「“いつまで”って、胡桃の本当の理解者が現れるまでだよ」
その返事に、俺を睨み付けるような表情を浮かべた篠崎だったけど、
「夢だと思ったんだ」
そう口にして、握りしめた拳に視線を落とした俺に、困惑したような顔で首を傾げる。